水田の水による物理的除染に適した土壌攪拌・泥水回収装置

要約

水による土壌攪拌による除染に適した土壌攪拌・泥水回収装置である。高濃度に放射性物質を含んだ微細土砂を含有する泥水を効率的に圃場で吸引する。泥水回収装置の位置調整が容易であり、雑物を含有しない微細土砂の高い回収効率が期待できる。

  • キーワード:物理的除染、土壌攪拌、水田、放射性セシウム
  • 担当:放射能対策技術・農地除染
  • 代表連絡先:電話 029-838-7530
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域、技術移転センター、資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水による水田の物理的除染工法は、湛水・土壌攪拌による放射性物質を高濃度に吸着した微細土砂の泥水中からの捕捉、そのバキューマでの吸引・流送、土壌の分級(篩い分け)、微細土砂の凝集・沈澱及び脱水減容化までのプロセスから構成される。本工法の実用化のためには作業効率の高い土壌攪拌・泥水回収装置の開発が望まれる。そこで、微細土砂の回収効率及び作業性の向上を図るための、土壌攪拌部整地板部の改良及び泥水回収部(樋)の位置を容易に調整できる装置の開発を行う。本装置開発以前の現地実証試験段階では、トラクタがけん引する代かき作業機の後方に泥水回収装置をパイプサポートで架設し、逐次、作業員数人がトラクタを停止して手動で位置調整しながら作業するため、作業性の向上が課題である(図1)。

成果の内容・特徴

  • 試作装置(図2)は、土壌攪拌用の代かき機の整地板部における泥水噴出用の長孔及び植物根等の分離のための除草フィンが設置され、また、回収装置部(樋構造:口径300mmの塩ビ管製)の可動調整機能を有する。さらに、バキューマに接続して行う泥水吸引の際に、固液2相流から気相を混入させ泥土の流動特性を改善するために空気導入ノズルを泥水吸引ホースに取り付けることも可能である。
  • 本装置での除染作業は、トラクタ(75馬力程度)の走行速度:2.0m/分、作業幅:約2.2m、水田湛水深:約7~10cmの条件で、泥水回収部(樋:塩ビ管製)の開口部角度、設置深度等を調整することが可能である(図2、表1)。泥水回収部の樋の水没深は、電動シリンダ駆動により機側から遠隔調整用コントローラーで作業員が操作可能である。
  • 農村工学研究所試験圃場においての本装置の性能試験(15m区間の直線走行1回)で
  • は(2014年9月)、(1)樋間距離を長くすると泥土(固形分)回収量が低下し(図3左図)、その回収中に含まれる細粒土比率(75μm以下)が増加する(図3右図)。(2)整流板(整流カバー開閉調整)の設置により、細粒土比率が90%以上に向上する(図3右図)。
  • 農村工学研究所圃場内の試験で得られた性能は、走行速度:1.9~2.2m/分、泥水回収速度:0.09~0.16m3/分、泥水比重:1.01~1.05、固形分回収速度:5.9~19.8kg/分、泥水回収分中の微細土壌(75μm以下)の割合:90%~95%の範囲である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本技術は、既耕作地のうち、作土層が薄い、あるいは、下層に礫が出現するなどにより、放射性物質を除去するための表土削り取りや反転耕が施工できない水田圃場の空間線量率と作物への放射性物質の移行を効果的に低減する方策としての適用を想定している。現地試験等から得られた知見を基に一連の全体工程の実施作業の手引きを発行している。
  • 土壌攪拌・泥土回収作業機は、メーカの受注生産である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:高濃度汚染土壌等の除染技術の開発と農地土壌からの放射性物質の流出実態の解明
  • 中課題整理番号:510a0
  • 予算区分:委託プロ(除染プロ)
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:中達雄、奥島修二、石田聡、白旗克志、土原健雄、吉本周平、鎌田雅美(DOWAエコシステム)
  • 発表論文等:
    1)中ら「農地土壌に含まれる汚染物質の回収装置」特願2015-091534 (2015年4月28日)
    2)農研機構他(2015)土壌攪拌(代かき)による放射性物質低減技術の実施作業の手引き(2016年1月20日)