受精卵移植による和子牛借り腹生産のコスト

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要約

酪農経営が受精卵移植によって和子牛(黒毛和種の肥育素牛)を借り腹生産するコストは、ドナーの借上料、1回当りの採卵個数、受胎率によって大きく左右されるが、岩手県下の現状では約23~35万と試算され、酪農経営にとっては、価格低迷が続く ヌレ子を生産するよりも1頭当たり約7~19万円の所得増になる。

  • 担当:東北農業試験場・農村計画部・経営管理研究室
  • 連絡先:0196-41-2145
  • 部会名:経営
  • 専門:経営
  • 対象:家畜類
  • 分類:指導

背景・ねらい

酪農経営においては、牛肉輸入自由化にともなうヌレ子価格の低迷に対応するため、受精卵移植によって付加価値の高い和子牛を借り腹生産するケースが増えてきたが、受精卵を提供する和牛(ドナー)の借上料や受精卵の採卵・移植料金の設定については、各地域で試行錯誤の状況が続いている。そこで、その経済性についての情報として、酪農経営における和子牛借り腹生産のコストと所得変化について試算した。

成果の内容・特徴

  • 酪農経営が和牛繁殖農家からドナーを借りて借り腹生産を行い、乳用牛に準じて人工哺育により育成する場合のコストを、実態調査や文献調査から明らかになった表1の前提に基づき試算した。
  • 営農現場では独自に受精卵の採卵・移植を行っている岩手県K町では、和牛受精卵を受胎させるコストは1頭当たり194,165円になっていたが、ドナー借上料を岩手県内の受精卵移植推進協議会の多くが採用している7万円にした場合は約14万円、さらに技術が試験場で実現している採卵個数7個、受胎率60%の水準まで向上した場合は約7.5万円になると試算され、受精卵移植のコストは、ドナーの借上料、 一回当たりの採卵個数、受胎率によって大きく左右される(表2)。
  • 表1にあげた三つのケースについて、借り腹生産された和子牛1頭当たりの第一次生産費と酪農経営の所得変化を試算した(表3)。 第一次生産費は約23~35万円となり、借り腹生産により、和牛繁殖農家の現状と同水準か、66~85%の低コストで素牛市場に和子牛を供給することが可能である。 また、酪農経営が付加価値獲得を目的とする場合には、価格低迷が続くホルスタインのヌレ子を販売するより、価格の高い和子牛を借り腹生産し、育成して販売する方が、1頭当たり約7~19万円の所得増になる。

成果の活用面・留意点

事業として受精卵移植を行う場合の料金設定、肉牛農家からドナーを借り上げる際の料金水準等を協議する上で検討素材となるが、ドナー借上料、採卵個数、受胎率の設定にあたっては、ドナーの品種・系統、技術水準についての慎重な考慮が必要である。

具体的データ

表1 試算の前提

表2 和子牛の受精卵を受胎させるまでの受精卵移植のコスト

表3 和子牛借り腹生産の生産費と酪農家の所得変化

その他

  • 研究課題名:肉用子牛の新生産技術の経済的評価
                      -寒冷地における新生産技術の経営的評価と適用条件の解明-
  • 予算区分 :別枠(体外受精)
  • 研究期間 :平成3年~4年
  • 発表論文等:東北農業経営・農村生活研究資料 NO.10、
                       「受精卵移植・体外受精技術の経営的評価」1993.3