イネの出穂開花期耐冷性の生態特性

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要約

イネの出穂開花期耐冷性には寡照下の低温開花性と雄蕊の充実度及び葯の裂開機能の永続性が関与する。葯の開裂機能の維持期間は耐冷期間と関係があり、耐冷期間は雌蕊上の発芽花粉数が40個以上確保されている日数とほぼ一致する。

  • 担当:東北農業試験場 地域基盤研究部 気象特性研究室
  • 連絡先:0196-41-2145
  • 部会名:やませ環境
  • 専門:農業気象
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

東北地域において、出穂開花期冷害が昭和51年、55年度、平成2年に発生し、作況指数が大きく低下した。この冷害発生には平均気温と寡照及びその作用期間などが関与していることから、このような冷害発生の気象条件下で、イネの出穂開花耐冷性の生態特性を解明する。

成果の内容・特徴

  • 出穂開花期の耐冷温度が著しく異なる「染分」、「フジミノリ」と「中生新千本」、「神力」に関する開花受精反応の比較調査から、後者の耐冷温度の低い品種は開花温度が低く、開花した穎花の稔実率が高くなっている。各品種の耐冷温度は寡照下における最終開花率が低下しない温度とほぼ一致する(図1 参照)。
  • 出穂開花期の耐冷期間が著しく異なる「染分」、「フジミノリ」と「中生新千本」、 「神力」に関する寡照低温下の開花受精反応の比較調査から、出穂後の低温下において、多くの受粉数を相対的に維持した品種の耐冷期間は長く、その耐冷期間は雌蕊上の発芽花粉数が40個以上確保されている日数とほぼ一致する(表1 参照)。
  • 出穂後に寡照低温処理を受けた穎花は葯の裂開が遅れ、かつ裂開の進行が遅くなる。 低温が長いと、葯柄が伸長し、葯が穎外に出た後に裂開する。さらに処理時間が長いと部分裂開、無裂開の葯数が増加し、遂に葯の裂開機能、葯柄の伸長機能及び穎花の開穎機能が順次失われる。また寡照低温下における葯の老化は耐冷期間の短い品種ほど早いという結果が得られた。

成果の活用面・留意点

これらの成果は冷害発生のメカニズムの解明や障害程度の推定に活用できる。 但し、本実験は人工気象室で出穂から温度と日射に処理を加える方法を採用しているために、自然条件下で生育したイネと生理現象の異なる可能性のあることに留意する。

具体的データ

図1 出穂後の寡照と低温が開花と受精に及ぼす影響

表1 出穂後の寡照低温期間の長さが授粉と受精に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:イネの出穂開花期冷害の研究
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成4年度(昭和61~平成3年)
  • 発表論文等:イネの出穂開花期耐冷性の強品種と弱品種の寡照冷温下における開花と稔実の特徴
                      育雑 42巻 1992. 他3編