コムギ(Triticum aestivum L.)のモチ変異体の作出方法

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要約

胚乳澱粉中のアミロース合成を支配するwaxy(Wx)遺伝子の産物であるWxタンパク質の二次元電気泳動による解析により、部分的モチ変異体の検出可能で、その利用によりモチコムギの作出が可能である。

  • 担当:東北農業試験場・作物開発部・育種工学研究室
  • 連絡:0196-43-3514
  • 部会名:生物工学
  • 専門:バイテク
  • 対象:麦類
  • 分類:研究

背景・ねらい

澱粉は、穀類あるいはイモ類の収穫部位の70%以上をしめる豊富な天然資源であり、食品あるいは工業原料として幅広く利用されている。澱粉は通常、直鎖状の多糖(アミロース)とさらに分枝構造を持つ多糖(アミロペクチン)から構成される。しかし、イネやトウモロコシなどではアミロースを欠いたモチ系統が存在し、特にトウモロコシのモチ系統はプレミアムが付き、付加価値が高い。しかし、世界の主要作物の一つである6倍体の普通系コムギ(TriticumaestivumL.)には、モチ系統が存在せず、その作出が望まれていた。そこでアミロース合成をつかさどるwaxy(Wx)遺伝子の発現をその遺伝産物であるWxタンパク質に注目して解析し、モチ系統の作出を試みた。

成果の内容・特徴

  • Wx遺伝子の産物であるWxタンパク質は二次元電気泳動(2D-PAGE)により、分子量の異なる2つのアイソフォーム群に分離することができる(図1a)。
  • 2D-PAGEで分離された2つのアイソフォームは、コムギ品種ChineseSpringの異数体系統を用いた遺伝分析より、A、B、Dゲノム由来の3つのWx遺伝子(Wx-A1、Wx-B1、Wx-D1)にコードされる分子量あるいは等電点の異なる3つのタンパク質(Wx-A1、Wx-B1、Wx-D1)に分離される(図1b)。
  • Wxタンパク質の2D-PAGEによる解析法により、コムギに存在する3Wx遺伝子の発現解析が可能になり、3遺伝子のうち、1ないし2遺伝子の発現を欠く変異体(部分的モチ変異体)が存在することが確認できた。現在までにType2、Type3、Type4、Type7の4種類が発見されている(図2)。
  • 確認された部分的モチ変異体のうち、Wx-A1とWx-B1の両タンパク質を欠くType7とWx-D1タンパク質を欠くType4を交配したところ、F2種子において、Wxタンパク質を全く欠き、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液で赤褐色に染色される胚乳澱粉(モチ澱粉)を持つものが、期待どおり1/64の比率で分離した(表1)。このことから、部分的モチ変異体を組み合わせWxタンパク質を完全に欠失させることにより、モチのコムギが作出できる。

成果の活用面・留意点

  • 2D-PAGEの二次元目、SDS-PAGEにおいては、分離ゲルのアクリルアミドイとBISアクリルアミドの比率を通常の30:0.8から30:0.135に変える。
  • コムギのWx遺伝子の分子レベルでの解析確認、そのクローニングに利用できる。
  • モチ形質を持った新たな品種の育成に利用できる。

具体的データ

図1.コムギWxタンパク質の二次元電気泳動図。

 

図2.現在までに見い出された部分的モチ変異体。

 

表1.Type7(関東107号)xType4(白火)のF2種子におけるモチ種子の分離

その他

  • 研究課題名:主要作物の組織培養法の確立とその育種的利用
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(昭和62年~平成7年)
  • 発表論文等:
    (1)The waxy(Wx)protein of maize rice and barley.Phytochemistry33,749,1993.
    (2)Identification of three Wx proteins in wheat(TriticumaestivumL.).Biochem Genet31,75,1993.
    (3)Decrease of waxy(Wx)protein in two common wheat cultivers with low amylose content. PlantBreed.111,99,1993.
    (4)Waxy protein deficiency and chromosomal location of coding genes in common wheat. Theor Appl Genet89,179,1994.
    (5)Production of waxy(amilose-free)wheats. Mol Gen Genet 248,1995.
    その他論文5,総説4