Fusarium nivale(ムギ類赤かび病と紅色雪腐病の共通の病原菌)はマイコトキシン(カビ毒)を生産しない

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要約

ニバレノール・デオキシニバレノール等のマイコトキシンを生産するとされていたFusarium nivale(Microdochium nivale)はニバレノールの単離に用いられた菌株の同定ミスであり、日本産のF.nivaleは既知のマイコトキシンを生産しない。

  • 担当:東北農業試験場・地域基盤研究部・病害生態研究室
  • 連絡:0196-43-3465
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物病害
  • 対象:麦類
  • 分類:研究

背景・ねらい

北日本を中心に分布するFusarium nivale(Microdochium nivaleに改名)は、低温年には赤 かび病の主要な病原になり、積雪下では紅色雪腐病を引き起こすムギ類の重要な病原菌であるほか、トリコテセン系のマイコトキシン(カビ毒:菌類の生産する 毒素、これに汚染された作物を食べると中毒を起こす)生産菌として一般の教科書に記載されている。しかし、ニバレノールが初めて単離されF.nivaleとされていたFn-2B菌株は、同定の誤りが海外から指摘され、本来のF.nivaleのマイコトキシン生産能が疑問視されていたことから、F.nivaleのマイコトキシン生産能を再検討した。

成果の内容・特徴

  • 5種の植物から伝染環に基づいて収集した分離後2年以内の30菌株(第1表)を供試し、培地および培養温度を本菌の生態的特徴に基づいて設定し、マイコトキシン生産能を調べた。コムギ穂にF.nivaleを接種したサンプルや圃場から採種したオーチャードグラス紅色雪腐病の被害茎葉も分析に供試した。
  • その結果、全ての株菌・培養法で既知のマイコトキシン(nivalenol, deoxynivalenol, T-2toxin, zearalenone, 3-acetyldeoxynivalenol, fusarenone-X, neosolaniol)は検出されなかった。また、被害茎葉部からもマイコトキシンは検出されなかった。
  • マイコトキシン生産菌のF.nivaleとして報告されていたFn-2B菌株は、菌糸生長温度がF.nivaleよりも高温性で、積雪下でのコムギに対する病原性がないことなどから、F.nivaleとは異なる種であることを確認した。

成果の活用面・留意点

北日本で低温年に赤かび病菌として優占するF.nivaleはマイコトキシンを生産しないことが明らかになった。しかし、マイコトキシンを生産する他のFusarium属菌も赤かび病菌として分布しているのでマイコトキシンによるムギ類の汚染には引き続き注意する必要がある。

具体的データ

表1 日本国内から分離したFusarium nivale(Microdochium nivale)のマイコトキシン生産性

その他

  • 研究課題名:Fusarium nivaleによる麦類赤かび病の発生生態の解明と防除技術の開発
  • 予算区分 :別枠(安全性向上)
  • 研究期間 :平成7年度(平成3年~7年)
  • 発表論文等:Reassessment of mycotoxin productivity of Microdochium nivale in Japan Ann.Phytopathol.Soc.Jpn.61:357-361(1995)