ダイズシストセンチュウの卵寄生菌の分離と生理・生態的性質

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要約

ダイズシストセンチュウの卵寄生菌[Fusarium oxysporum(H2-09菌株)]を分離した。本菌は、25作物に病原性がなく、PS液体培地で27°Cで振とう培養すると3日以降多数の胞子を形成した。本菌の線虫卵に対する寄生率は、土壌温度25°C付近、土壌pH5.5付近で高かった。

  • 担当:東北農業試験場・畑地利用部・畑病虫害研究室,岩手県業試験場・環境部・病害虫科
  • 連絡先:0245-93-5151,0196-88-4134
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物虫害
  • 対象:豆類
  • 分類:研究

背景・ねらい

土壌くん蒸性の殺線虫剤は、深根性の作物では効果が不十分な場合がしばしば認められる。このため天敵などの生物機能を活用し、農薬を補完する持続的な線虫制御技術の確立が望まれている。そこで、卵寄生菌を利用したダイズシストセンチュウの防除技術を確立するために、卵寄生菌を分離し、培養的性質、作物に対する病原性、線虫卵に対する寄生条件などを解明する。

成果の内容・特徴

  • 岩手県農業試験場のアズキ圃場のダイズシストセンチュウ卵から糸状菌を分離した。接種試験によりそれらの中から、ダイズシストセンチュウ卵に寄生率の高かった卵寄生菌[Fusarium oxysporum(H2-09菌株)]を選抜した。
  • 卵寄生菌のPSA培地での発育適温は22.5~32.5°Cで、最適温度は27.5°C付近であった(図1)。また、PSA培地での発育適pHは5.5~10.0であった。
  • 卵寄生菌をPS液体培地で27.5°Cで振とう培養すると、培養3日以降には胞子(芽胞状の菌体、bud-cell)形成数が2~4×108/mlでほぼ一定になった(図2)。
  • 卵寄生菌は、野菜や豆類などの25作物(10科21属26種31品種)に対して病原性が認められなかった。
  • 卵寄生菌のダイズシストセンチュウ卵に対する寄生は、土壌温度20~30°Cに適温範囲があり、25°Cで寄生率が最も高かった(図3)。
  • 卵寄生菌のダイズシストセンチュウ卵に対する寄生は、比較的酸性土壌(pH5.5)で寄生率が高かった(図4)。

成果の活用面・留意点

本卵寄生菌は岩手県農業試験場及び東北農業試験場で保存し、提供に応じる。実用化に向けては圃場試験での検討が必要である。

具体的データ

図1.卵寄生菌の培養温度と菌そう発育図2.卵寄生菌の胞子形成数の経時的変化

 

図3.卵寄生菌の寄生率と土壌温度 図4.卵寄生菌の寄生率とpH

 

その他

  • 研究課題名:卵寄生菌利用によるダイズシストセンチュウの防除技術
  • 予算区分:一般別枠(安全性向上)
  • 研究期間:平成7年度(平成3年~7年)
  • 発表論文等:土壌温度及び土壌酸度が卵寄生菌(Fusarium sp.)のダイズシストセンチュウ卵数及び卵寄生率に及ぼす影響,日本線虫学会誌,24(2):76-78,1994.ダイズシストセンチュウ卵に寄生する糸状菌(Fusarium oxysporum)の培養的性質並びに作物に対する病原性,北日本病害虫研究会報,47,1996(発表予定).