湛水散播水稲における耐ころび型倒伏性の影響要因とその評価

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要約

湛水散播水稲のころび型倒伏に影響を及ぼす播種深度、穂揃い期株生育量、土壌の表面硬度と株支持力との関係を、水稲品種「どまんなか」を用いて解析し、耐ころび型倒伏性の診断技術の開発に有効なモデル式を作成した。

  • 担当:東北農試・水田利用部・栽培生理研究室
  • 連絡先:0187-66-2776
  • 部会名:水稲
  • 専門:栽培
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

水稲の湛水散播栽培においては、 ころび型倒伏の防止が安定生産を図る上で重要な課題である。 直播栽培における耐倒伏性の診断技術の確立や、品種の選定に役立てる目的で、 播種深度、穂揃い期の一株生育量および土壌の表面硬度と株支持力 (地下部が地上部を支える力。本成果情報では、 倒伏試験器を地表面から一定の高さで株に対して直角方向に押しつけ、 得られた抵抗値と測定高の高さとの積から得られる押し倒し抵抗で評価) との量的関係を解析し(水稲品種「どまんなか」対象)、 これら3要因の組み合わせから株支持力を予測できるモデル式を考案した。

成果の内容・特徴

  • 穂揃い期の押し倒し抵抗(P)は、同期の株乾物重(W:g/株) と節根の発根する株基部の最上部で測定された株直径(D:cm)の積値(W×D) と高い相関関係を示し、後者が大きくなるとこれに比例して高い値となる。 この場合、その直線回帰式の回帰係数(以下、抵抗係数kとする)は、 播種深度や測定時の土壌の表面硬度に応じて変動する (図1、(1)式) 。
  • 土壌の表面硬度(S:kg/平方センチメートル)の増大に伴って 抵抗係数kは顕著に高まるが、Sが約1.2kg/平方センチメートル以上になると kの向上程度は小さくなり、飽和型の曲線で近似される関係を示す ( 図2、(2)式 :ただし播種深度1.89mm)。
  • 播種深度(L:mm)と抵抗係数kとの関係を各土壌硬度別にみると、 いずれの場合も播種深度にほぼ比例してkも高くなる傾向が認められる。 この場合、その切片は(2)式に、 傾きは直線回帰の関係に従っていずれも土壌硬度により変動する (図2、(3)式) 。
  • 株乾物重(W)と株基部の発根部径(D)との間の関係式(4)式(図略)、 および(3)式を(1)式に代入することにより(5)式が得られる。 よって、押し倒し抵抗(P)は、 穂揃期株乾物重(W)、土壌の表面硬度(S)、播種深度(L)から推定できることとなる (図3) 。 D=1.11×(W+13.7)^0.5-3.24 (4)式 P={105.13×[1-exp(-S/1.11)]+(0.42S+0.99)×(L-1.89)} ×[1.11×(W+13.79)^0.5-3.24]×W (5)式

成果の活用面・留意点

  • 各播種深度、株密度、土壌の表面硬度の組み合わせごとに、 ころび型倒伏を防止するのに必要な限界稈長がこのモデル式から推定され得る (図4) 。
  • 土壌の表面硬度は面積2平方センチメートルの平面型土壌硬度計を用いた測定値である。
  • 各パラメータは土壌の種類や品質によって変動するため、 それぞれについて設定する必要がある。

具体的データ

図1 一株乾物重と株基部発根部径の積値に伴う押し倒し抵抗の変動

図2 抵抗係数kに及ぼす土壌表面硬度(S)、播種深度(L)の影響

図3 推定式の適合度

図4 播種深度、株密度、土壌表面硬度条件の各組合せごとの倒伏防止上限界と推定される稈長レベル

その他

  • 研究課題名:作物根の地上部支持機構の解明と倒伏軽減技術の開発
  • 寒冷地における直播栽培用品種の選定
  • 予算区分 :経常、地域先導
  • 研究期間 :平成8年(平成6年~8年)
  • 発表論文等:水稲湛水散播栽培における耐ころび型倒伏性の圃場内位置による変異,
                      日作紀64別1,4-5