イネカラバエの休眠におよぼす光周期とイネの生育ステージの影響
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要約
イネカラバエの日長感受期は卵期と幼虫期である。卵期が長日の場合、イネの生育ステージと日長によって休眠(若齡幼虫期)する。この休眠はイネ幼穂の摂食によって覚醒され2化型は長日、3化型は中間日長で夏休眠(老熟幼虫期)する。卵期が短日の場合には冬休眠(1齡幼虫期)が誘導される。
- 担当:東北農業試験場・水田利用部・水田病虫害研究室
- 連絡先:0187-66-1221
- 部会名:生産環境
- 専門:作物虫害
- 対象:昆虫類
- 分類:研究
背景・ねらい
イネカラバエは北海道・東北地域では年2世代を経過し、
その他の地域では年3世代を経過する。
両系統の幼虫発育と休眠におよぼす光周期とイネの生育ステージの影響を解析し、
2化型と3化型の季節適応を明らかにする。
成果の内容・特徴
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卵期を長日としイネ幼苗(3葉期以下:不完全葉を含む)で飼育すると、
2化型は短日と中間日長で発育し、3化型は短日と長日で発育する。
卵期の長日は冬休眠を回避し、
幼虫期の短日は夏休眠を回避し不休眠発育が誘導される。
3化型の第1世代は6月の長日と5葉期以下のイネで発育する(図1)。
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2化型の第1世代は4葉期以上のイネと長日、
3化型の第2世代は7葉期以上のイネと中間日長によって若齢幼虫期に休眠する。
若齢幼虫期の休眠はイネ幼穂の摂食によって覚醒される。
幼穂を摂食し老熟した幼虫は長日(2化型)あるいは中間日長(3化型)で夏休眠する(図1)。
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2化型の第2世代と3化型の第3世代は、
卵期の短日によって冬休眠(1齢幼虫期)が誘導され、
幼虫期の短日によって冬休眠が維持される(図1)。
休眠発育終了後の1齢幼虫(越冬後幼虫)の発育には光周反応はみられない。
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イネカラバエの夏休眠は成虫の羽化期を揃えるとともに
次世代の卵期を冬休眠誘導の臨界日長以下に遭遇させるという生態的意義がある。
夏休眠と冬休眠は寄主植物の季節変化(イネの出穂・冬寄主であるイネ科雑草の発芽)
に適応する方向で進化し、
休眠誘導・維持の臨界日長には地理的な勾配変異がみられる。
成果の活用面・留意点
イネカラバエは複雑な光周反応によって、
2化型と3化型それぞれの生活史を維持している。
これらの光周反応の解析は、発生予察の基礎資料となる。
具体的データ

その他
- 研究課題名:イネカラバエの化性分化機構の解明
- 予算区分 :経常
- 研究期間 :平成8年度(平成4年~8年)
- 発表論文等:Photoperiodic responses during larval development and diapause of
two geographic ecotypes of the rice stem maggot,
Chlorops oryzae. Entomol. exp. appl. 63:273-281.1992.
Photoperiodic induction, maintenance and termination of winter
diapause in two geographic ecotypes of the rice stem maggot,
Chlorops oryzae Matsumura (Diptera:Chloropidae).
Appl. Entomol. Zool. 31:379-388.1996.
イネキモグリバエの化性と休眠 植物防疫 48(6):241-244, 1994.