牛ヒレの品質向上のためのと畜・解体方法

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要約

肥育牛をと畜する場合に、延髄・脊髄破壊処理を中止するか、 解体後直ちに腎臓脂肪を除去し、冷却することで牛ヒレ肉の品質が改善される。

  • 担当:東北農業試験場・畜産部・栄養生理研究室
  • 連絡先:019-643-3543
  • 部会名:畜産(家畜)
  • 専門:加工利用
  • 対象:肉用牛
  • 分類:指導

背景・ねらい

本国のように大きく肥育された肉牛では、と畜直後の大腰筋のpHが諸外国の報告と比較して低い値を示す傾向がある。これは豚肉で問題とされるむれ肉が発生する条件と類似しており食肉としての品質の低下が懸念される。そこで、と畜直後に低pHとなる原因を調べ、ヒレ肉の品質向上のためのと畜・解体方法について検討した。

成果の内容・特徴

肥育牛のと畜時に行われる延髄・脊髄破壊処理は、ヒレ肉の痙攣を誘発し急激なATPの消費とpHの低下を引き起こす。さらに、ATP再生の原料であるクレアチンリン酸も消失する (表1、破壊区)。従って、ヒレ肉はむれ肉状態となる(図2、対照区)。

この問題を解決するには、次の2つの方法が考えられる。

  • と畜時の痙攣を抑制する。
    と畜時の延髄・脊椎破壊処理を中止すると pHの急速な低下をある程度抑制することができる。しかし、 pHのばらつきが大きくなる(表1、非破壊区)。これは延髄・脊髄破壊処理の中止によっても急速なpH低下を抑制できない個体が存在することを意味する。
  • ヒレ肉の冷却を促進する。
    解体直後の枝肉から腎臓脂肪を除去してヒレ肉の冷却を促進すれば、むれ肉症状を抑制することができる。ここでは除去後、流水(10~14度C、14L/min) を5分間流して冷却効果を高めた(図1)。本方法がヒレ肉の理化学的変化及び官能検査結果に及ぼす影響は以下の通りである。
    • 貯蔵中の肉汁の流出が抑制され、熟成後のヒレ肉の水分含量が有意に高くなる (図2)。
    • 食肉は若干堅くなる(図2)。 しかし、ヒレ肉は元来軟らかい部位であり官能的に問題となることはない (表2)。
    • 水分含量が多いためクッキングロスが多くなる (図2)。
    • 水分含量が2.9%以上改善されると官能的に好ましくなったと判断される (表2)。
    • むれ肉症状が抑制されるため、色調がやや暗くなる (図2)。

成果の活用面・留意点

腎臓脂肪を除去する場合に、ヒレ肉が完全に露出すると肉が乾燥する危険がある。また、水分含量が高いために展示中のドリップロス及びクッキングロスが多くなる。しかし、これは腎臓脂肪除去を行わなかったヒレ肉の水分はすでに熟成中に流出したためである。

上記の1.と2.を併用することでより良い効果が期待されるが、解体作業に時間を取られ、ヒレ肉の冷却が遅れないようにする必要がある。

 

具体的データ

表1.延髄・脊椎破壊処理がクレアチンリン酸(CP)、ATPおよびpHに及ぼす影響

 

図2.腎臓脂肪除去が理化学的特性に及ぼす影響

 

図1.ひれ肉の温度変化

 

図2.腎臓脂肪除去による理化学的特性の差が官能検査に及ぼす影響

 

その他

  • 研究課題名:牛肉品質管理のための屠殺・枝肉保存技術の開発/日本短角種の食肉としての品質特性の解明
  • 予算区分:経常/地域総合
  • 研究期間:平成9年度(平成3年~6年度)/(平成9年~13年度)
  • 発表論文等:Effects of pithing on pH, creatine phosphate and ATP-related compounds of beef psoas major and longissimus dorsi muscle.Meat Sci., 29:221-228,1991.Effects of fattening on post-mortem pH of beef muscles.Meat Sci., 35:269-274,1993.肥育牛の屠畜直後の腎臓脂肪除去による冷却がひれ肉の品質に及ぼす影響 日畜会報, 68:780-786,1997