生育前期の水稲は風のある晴れた日に水温を上げる

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要約

風のある晴天日の日平均水田水温は、葉面積指数(LAI)が1.6以下では、 稲が存在しない場合より最大で1度C高まる。風のない晴天日の日平均水温は、 稲が存在しない場合より常に低く、LAIの増加とともに低下する。

  • 担当:東北農業試験場・地域基盤研究部・気象評価制御研究室
  • 連絡先:019-643-3461
  • 部会名:生産環境
  • 専門:農業気象
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

水田水温は日射や風速などの気象環境と稲の生育ステージ(群落の発達の程度) に依存して変化するが、現在一般的に使われている平衡水温モデルなどでは、気象環境の影響しか考慮されていない。実際の水田では、刻々と生長する稲体が水温に影響を及ぼしているが、これまでの研究では、稲体の大きさが水温に及ぼす影響の定量的な評価はほとんどされてこなかった。そこで、稲の有無による水田水温の差を、稲の生育(群落の発達)程度と定量的に関連づけることによって、より精度の高い水田水温予測の資とする。

成果の内容・特徴

  • 稲の有無による水田水温の差はLAIと気象条件によって決まり、栽植密度による違いは見られない。
  • 風のある晴天日の日平均水田水温は、稲体がない場合の水温に比べ、稲の生長にともなって高まり、その差はLAIが1で最大1度Cに達する。その後、生長と共にその差は小さくなり、 LAIが1.6以上では稲がない場合より低くなる。一方、風のない晴天日の日平均水温は、稲体が存在しない場合より常に低く、 LAIの増加とともに低下する(図1)。この現象は、次のような理由によって起こる。
    • LAIが約0.5以上になると、風の強弱にかかわらず、晴天日の夜間の水田水温は稲が存在しない場合より1度C前後高くなる (図2)。これは主に、稲体が水面から放射冷却で熱が逃げるのを抑制するためである。
    • 晴天日の日中には、稲体は日射を遮って水温の上昇の抑制する効果と、風を遮って大気と水面の間の熱交換を抑制し水温の上昇を促進する 2つの効果を持つ。風がある晴天日には、 LAIが約1.2以下で日射の遮蔽効果より熱交換の抑制効果が大きいため、日中の水温は稲体が存在しない場合より高まる (図2上)。一方、風がない晴天日には、大気と水面の間の熱交換が風速に依存しなくなるため、後者の効果が減少し、日中の水温は稲体が存在しない場合より常に低くなる (図2中)。
  • 曇天日には、気温と水温の差が小さいので、風の強弱にかかわらず、稲が水温におよぼす影響は少ない。

成果の活用面・留意点

  • 減水深の大きな水田では、用水温度が上記の結果に及ぼす影響が大きい。
  • 水田水温の値そのものは、気温および水深にも依存する。

具体的データ

写真.

 

図1. 図2.

 

その他

  • 研究課題名:やませ吹走下における広域水田水温の予測
  • 予算区分:地域総合(早期警戒)
  • 研究期間:平成9年度(平成8~12年)
  • 発表論文等:Agricultral and Forest Meteorology に発表予定