エンドウヒゲナガアブラムシの翅型を制御するプレコセン誘導体

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要約

抗幼若ホルモン活性を持つプレコセン誘導体には エンドウヒゲナガアブラムシの翅型を抑制する効果があり、 19種類の化合物のうち7種類が有翅虫の産出を引き起こし、 10種類は逆に有翅虫の産出を阻害する。

  • 担当:東北農業試験場・地域基盤研究部・害虫発生予察研究室
  • 連絡先:019-643-3466
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物虫害
  • 対象:豆類
  • 分類:研究

背景・ねらい

エンドウヒゲナガアブラムシは各種のマメ科作物を加害し、多くのウイルス病を媒介する。本種は雌成虫が雌の子虫を生む単為胎生生殖で繁殖する。成虫には有翅虫と無翅虫があり、どちらの型になるかは子虫が母虫から生み出される前に決まる。雌成虫は高密度や古い餌などの不適な条件を経験すると有翅型となる子虫を多く産み、有翅虫は好適な棲息場所を求めて移動する。したがって有翅虫は、本種が作物上で加害を始める際の植民者であり、またウイルス菌を圃場内へ最初に持ち込む媒介者でもある。この有翅虫の出現機構を解明し、その出現率を化学物質等で人為的に制御できれば、アブラムシの移動分散やウイルス媒介を抑制する有力な手段となる。本研究では、この虫の翅型を制御する物質を探索する第一歩として、抗幼若ホルモン物質の一種であるプレコセン誘導体がその翅型に及ぼす影響を調査した。

成果の内容・特徴

  • 19種類のプレコセン誘導体1.0μgを0.1μlのアセトンに溶かし、単独飼育したエンドウヒゲナガアブラムシ雌成虫に散布すると、 7種類の化合物が有翅虫の産出を引き起こした (図1、図3)。有翅虫産出効果が最も高かったのはプレコセンIIで、プレコセンIIの5位の水素をメチル基に置換した化合物XIIがそれに次いだ。
  • 産子開始前に24時間混み合い処理し、有翅虫を高率で産出するように条件づけた雌成虫にこれらの化合物を散布すると、 10種類の化合物が有翅虫の産出を阻害した (図2、図4)。有翅虫産出を阻害した化合物の一部は、子虫の変態異常(早熟変態、過剰脱皮)を引き起こした。またプレコセンIIやIIIには、散布直後には有翅虫の産出を阻害し、その後は逆に有翅虫の産出を促進するという二重の効果が認められた。
  • 他の昆虫で報告されているようなプレコセンの抗幼若ホルモン活性がアブラムシ有翅虫の産出を引き起こしているのかどうかを明らかにするため、プレコセンを処理した雌成虫に幼若ホルモンを追加塗布したが、有翅虫の産出は阻害されなかった。また、混み合い処理した雌成虫に幼若ホルモンを散布しても有翅虫産出の阻害効果はなく、本種の翅型決定には幼若ホルモン以外の要因が関与している可能性がある。

成果の活用面・留意点

プレコセン誘導体によって本種の翅型を制御できることが示されたが、使用したプレコセンはまだ不安定な化合物であるので、より安定でかつ同様な効果を持つ化合物を探索する必要がある。

具体的データ

図1.有翅虫の産出を引き起こすプレコセン誘導体。図3.プレコセンIとIIの塗布処理によって引き起こされた有翅虫の産出の例

 

図2.有翅虫の産出を阻害するプレコセン誘導体。

 

図4.プレコセンIIIと化合物IVの塗布処理によって引き起こされた有翅虫産出阻害の例

その他

  • 研究課題名:アブラムシ類の翅型制御
  • 予算区分 :大型別枠(生物情報)
  • 研究期間 :平成9年度(昭和63~平成9年)
  • 発表論文等:Effects of 2,2-Dimethylchromene Derivatives on Wing Determination and Metamorphosis in the Pea Aphid, Acyrthosiphon pisum.Archives of Insect Biochemistry and Physiology 30:25-40.1995