日本短角種の2シーズン放牧を活用して美味しい牛肉を生産する技術

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要約

高標高の公共草地で日本短角種の秋子(7、8月生まれ)を2シーズン放牧した後、 牧草サイレージおよび乾草を多給して12ヶ月間肥育すると、 慣行の春子による牛肉生産の端境期に美味しい牛肉を出荷することが可能である。

  • 担当:東北農業試験場・総合研究部・総合研究第2チーム
  • 連絡先:019-643-3412
  • 部会名:畜産(草地)
  • 専門:動物栄養
  • 対象:家畜類
  • 分類:普及

背景・ねらい

我が国の牛肉生産は海外からの膨大な穀物や粗飼料を使って肥育しており、糞尿処理ばかりでなく、肥育牛の疫病や無駄な脂肪蓄積などの問題が生じている。一方、消費者は霜降り牛肉から、健康的に飼育した牛からの美味しい赤身肉、それも安心して食べられる国産牛肉を求めるようになってきており、今後は物質循環を可能にする放牧で健康に育て、さらに肥育においても無農薬である牧草を使って牛肉を生産していくことが必要となる。そこで、放牧に適している日本短角種でそのための飼養システムを検討する。

成果の内容・特徴

  • 日本短角種の秋子(7、8月生)を2シーズン目の放牧終了後の11月(15ヶ月齢) から肥育するが、肥育方法によって肉質が異なる。
  • 肥育前期に粗飼料を多給した肥育では、肥育期間が10ヶ月間以下では「きめ・しまり」が劣るが、皮下脂肪は薄く、歩留まりは高い (表1の試験1)。
  • 前期から慣行水準まで濃厚飼料の給与量を高めると、終了時体重は約680kg~740kg で、また、冬期に厳しい寒さの岩手県の高標高地で肥育しても高い日増体量 (DG、0.9kg以上 )が得られる。この肥育による肉質等級は全頭2等級で、肥育期間が12ヶ月では皮下脂肪が厚くなるので、肥育期間は10ヶ月が適当である (表1の試験2)。
  • チモシーまたはオーチャードグラスの低水分牧草サイレージおよび乾草を飽食させ、濃厚飼料の1日当たりの給与量を8kgに抑制した肥育(12ヶ月間)では、 DGは0.9kgで肉質等級も2等級である。また、枝肉の脂肪の色も6頭中3頭でやや黄色くなる程度である (表1の試験3)。出荷は10月で慣行の春子による牛肉生産の端境期にあたる。
  • 牧草多給肥育による牛肉(試験3)は慣行水準肥育による牛肉(試験2)よりも、販売、加工、調理の従事者(試験2:39人、試験3:36人)による食味の評価が高い (図1)。
  • 以上の結果から判断して、赤身主体の美味しい牛肉を生産するには、日本短角種で放牧育成と牧草を多給(37%)した肥育 (試験3) を組み合わせた飼養システムが効果的である (図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本方法では肥育期間が12ヶ月以下で牛舎を効率的に使用できる。放牧から肥育までの一貫した生産技術体系の確立により、中山間地域での日本短角種の振興が期待される。
  • 粗飼料は良質のものを用いる。

具体的データ

表1.2シーズン放牧育成後の日本短角種秋子の肥育

 

図1.販売・加工・調理従事者によるロースの食味の評価 図2.2シーズン放牧を活用した牛肉生産システム

 

その他

  • 研究課題名:公共牧場を基盤とした低コスト・良質牛肉生産システムの確立
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成9年度(平成6年~9年)
  • 発表論文等:2シーズン放牧した日本短角種秋産子の肥育、92回日本畜産学会大会要旨集、62、1997