牛体外受精培養液のカゼインホスホペプチド添加による卵子への精子侵入率の向上

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要約

通常の培養方法では卵子への精子侵入率が低い牛精子の場合、 体外受精培養液中にカゼインホスホペプチドを添加することによって、 精子侵入卵率が有意に向上する。

  • 担当:東北農業試験場・畜産部・家畜繁殖研究室
  • 連絡先:019-643-3542
  • 部会名:畜産
  • 専門:繁殖
  • 対象:肉用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

牛胚を得る方法の一つとして体外受精技術が開発され、実用化技術として確立されつつある。しかしながら、優れた経済形質を持つ種雄牛の精子が、卵子への精子侵入率(精子侵入率) が低いため体外受精に使用できない場合がある。従って、どの精子にも有効で、しかも高い正常受精率が得られる体外受精系の開発が急務となっている。そこで、豚の体外受精において低い精子侵入率を示す精子の精子侵入率を高める効果が報告されているカゼインホスホペプチド(CPP) が牛精子の体外受精に有効かどうかを検討した。

成果の内容・特徴

  • 牛A及びBの精子侵入率は、受精培養液(BO液:塩化カルシウムの濃度が通常の2倍) 中へのCPPの添加によって、有意に高くなった(P<0.01:x2)。また、もともと受精率が高い牛CはCPPの添加無添加に関係なく高い精子侵入率を示した (図1)。
  • 牛A及びBの精子で体外受精(CPPを含む受精培養液を使用)して得られた体外受精胚各1個ずつをレシピエントの雌牛に移植したところ、正常な子牛が2頭生まれた。
  • (図2)に示すように、採精日と精子侵入率が異なる同一牛Dからの凍結精子(N1、N2) についてCPPの効果を調べたところ、精子侵入率の低い凍結精子N1の精子侵入率は、受精培地へのCPP添加によって、有意に高くなった(P<00.5:x2)。一方、CPP無添加でも高い精子侵入率を示した凍結精子(N2)の場合、媒精5時間目のCPP添加区において、無添加区と比較して有意に高い精子侵入率が得られた(P<0.05:x2)。これにより、 CPP添加により体外成熟卵子への精子侵入速度が有意に速くなることが判明した。

成果の活用面・留意点

今回開発した方法により、従来の方法では精子侵入率が低い精子の精子侵入率をある程度高めることができる。しかし、実験に用いた種雄牛の頭数が少ないので、さらに多くの種雄牛からの精子について本法により受精実験を行う必要がある。

具体的データ

図1.受精培養液中へのカゼインホスホペプチドの添加が牛体外成熟卵子への精子侵入に及ぼす影響

 

図2.カゼインホスホペプチド(CPP)が同じ種雄牛からの採精日が異なる射出精子(N1,N2)の精子侵入率に及ぼす影響

 

その他

  • 研究課題名:体外受精における正常受精率向上技術の開発
  • 予算区分:総合的開発(新乳肉複合)
  • 研究期間:平成7年度~12年度
  • 発表論文等:
    Casein phosphopeptides promote IVF in cattle
    日本畜産学会報 67:1037-1042(1996)
    受精培地および受精培地への添加物がウシの体外受精に及ぼす影響
    日本胚移植研究会 講演要旨集 P36(1996)
    Male-dependent variability of fertilization and embryo development in two bovine in vitro fertilization systems and effects of casein phosphopeptides(CPPs).
    Reprod.Fertil.Develop. 9:465-474(1997)