来歴・品質の提示が牛肉の食味評価に及ぼす影響

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要約

牛肉の来歴・品質提示、特に国産・輸入の別の提示が消費者の食味評価に大きな影響を及ぼす。また、日本単角牛肉の消費拡大のためには低脂肪や飼い方に由来するヘルシーさや安全性などの特性を的確に伝える来歴・品質提示が必要である。

  • 担当:東北農試・総合研究部・農村シス研・総研2チーム
  • 連絡先:019-643-3493
  • 部会名:経営
  • 専門:経営
  • 対象:肉用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年、食生活における健康志向や安全志向の高まりに伴い、農畜産物の品質提示・来歴提示のあり方が消費者の関心となっており、低脂肪の赤身肉、放牧・粗飼料を活用した飼い方に由来する健康性や安全性などの特性を有している日本短角牛肉のマーケティングにおいても大きな課題となっている。また、来歴・品質提示のあり方が消費者の食味評価にも少なからぬ影響を及ぼす事実が指摘されている。しかし、このことを実証した調査研究は食肉ではほとんどないため、食味評価及び関連するアンケート調査を実施・分析する。

 

成果の内容・特徴

  • 場公開(平成10年9月18日)来場者188人を対象に食味評価及び関連するアンケート調査を実施した。食味評価にあたっては、日本短角種 (以後短角, BMS.No.2, 剪断力価 3.0kg/m2)、輸入牛肉(BMS.No2相当, 剪断力価 2.9kg/m2)、黒毛和種(以後黒毛BMS.No.7, 剪断力価 2.0kg/m2)のサーロインを厚さ1cm程度に切って強火で焼き(ミディアム)、約30gずつ供した。短角は東北農試総研第2チームが生産したもので、牧草サイレージ及び乾草をTDN換算で総給与飼料の約1/3与えた牧草多給のものを用いた。月齢は26ヶ月である。輸入牛肉と黒毛は卸から購入したものを用いた。被験者の半数には、 (1)「国産・輸入の別」、(2)「霜降・赤身の別」、(3)「価格」、 (4)「脂肪含有率」、(5)「カロリー」、(6)「飼い方」の6項目 (短角・黒毛はあわせて品種名)の来歴・品質を提示し、残りには何も提示しなかった。
  • 来歴・品質を提示した場合、食味評価については、黒毛で高くなり、輸入牛肉では逆に低くなる傾向が顕著に認められ、短角では変わりなかった (図1)。また、「おいしい」と感じた牛肉の順位についても同様であった (表1)。
  • 提示された項目の中で最も気になったものとしては、「国産・輸入の別」が最も多く、ついで「価格」、「霜降・赤身の別」の順であった。逆に短角や輸入牛肉にとって有利な提示と思われた「脂肪含有率」や「カロリー」、「飼い方」の回答割合は少なかった (図2)。
  • 「品質表示してほしい項目」で最も回答の多いのは「国産・輸入の別」(55.3%)で、牛肉に対するイメージに関して、「国産の牛肉ならば安全」とする回答の割合は高い (824%)。このことは、来歴・品質提示の効果の背景に「国産の牛肉は安全」とする消費者の強い認識があると判断される。
  • 一方、牛肉の購買における選択理由をみると、「安全性」(49.2%)や「健康を考えて」 (36.2%)という回答の割合も多かった。
  • 以上から、牛肉の来歴・品質の提示、特に「国産・輸入の別」の提示が消費者の食味評価に大きな影響を及ぼすと判断される。また、脂肪やカロリー、飼い方については、通常の提示の仕方では、消費者に十分な注意が喚起されず、効果が認められないと判断される。すでに、短角産地では、低脂肪や放牧・粗飼料を活用した飼い方に由来するヘルシーさや安全性などの特性の消費者に対する提示に努めているが、その必要性が確認された。

成果の活用面・留意点

  • 短角のマーケティング戦略を策定するための基礎資料となる。

具体的データ

図1.消費者による牛肉の食味評価

 

表1.「好きな牛肉第1位」と情報の提示・不提示による相違(n=177)

 

図2.提示された項目の中で最も気になったもの

 

その他

  • 研究課題名:良質赤肉に対する消費ニーズの解明と新しい流通システムの確立
  • 予算区分 :地域総合
  • 研究期間 :平成11年度(平成9年~13年)
  • 発表論文等:
    • 日本短角牛肉に対する消費者の志向に関する一考察、平成10年度日本農業経営学会研究大会・個別報告、1998
    • 牛肉の食味評価と来歴・品質提示が及ぼす影響-日本短角牛肉を中心に-、東北農試総合研究(A) 第20号、2000