イネいもち病は1回の感染好適条件で伝染源から1km近くまでの範囲に拡散する

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

イネいもち病の感染好適条件が1回出現すると、いもち病菌の胞子は伝染源から空気伝播して数百m~1km近くに及ぶ範囲に新たな病斑を形成する。その場合、伝染源からの距離別の病斑密度は指数関数式に従うごく緩い勾配をとる。

  • 担当:東北農業試験場・地域基盤研究部・病害生態研究室
    東北農業研究センター・地域基盤研究部・病害管理研究室 新潟県農業総合研究所・作物研究センター・栽培科
  • 連絡先:019-643-3465
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物病害
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

稲作の最重要病害であるいもち病は空気伝染性であり、1回の感染好適条件で広範囲に発病が拡散していると考えられているが、その範囲は不明で、種々の防除法の有効性を的確に評価できなかった。伝染源およびそこからいもち病菌胞子の飛散により新たに拡散したと考えられる病斑から得られた菌株のDNAフィンガープリントを解析することにより、拡散範囲および伝染勾配を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 岩手県・新潟県の3地点で1997-99年に観察された、葉いもち全般発生開始期における発病取置苗からの葉いもち病斑密度の勾配はいずれも指数関数式に適合し、病斑の拡散は500~700mの範囲まで認められ、1km近くに及ぶ。勾配はごく緩い(図1、2)。
  • 上記の範囲で発見された病斑から分離されたいもち病菌菌株をAFLP法およびpotー2rep PCR法(Georgeら1998)を用いたDNAフィンガープリントで分析したところ、ほとんどの菌株は同一の伝染源(発病取置苗)から拡散したものと考えられた(図2,表1)。

成果の活用面・留意点

  • 圃場衛生による防除や広域一斉防除の有効性についての考察に有用である。
  • 地域のいもち病菌レース頻度の変動機構の解析に有用な知見となる。
  • いもち病には、一圃場内で見られるような、より急な伝染勾配があることが知られており、今回認められたものを含めて、少なくとも2種の伝染勾配を持つことになる。

具体的データ

図1.1997年の岩手県紫波町において、葉いもち全般発生開始期に観察された発病取置苗(伝染源)からの病斑数の伝染勾配。

 

図2.1997年の岩手県紫波町における発病取置苗周辺圃場の見取り図と圃場毎の作付け品種

 

表1.1997年の岩手県紫波町において伝染源付近の圃場から分離したいもち病菌菌株の、AFLPに基づいた圃場別遺伝子型頻度1

 

その他

  • 研究課題名:感染好適環境下におけるイネいもち病菌伝播機構の解明
  • 予算区分:「次世代稲作」、「地域基幹」
  • 研究期間:平成12年度(平成10~12年)
  • 研究担当者:石黒 潔、小林 隆、原澤良栄(新潟農総研)、中島 隆(技術会議事務局)・兼松誠司
  • 発表論文:田圃のイネいもち病菌はどこからやってくる?DNAマーカーによる探査の試み
                   化学と生物、37(7)、433-434,1999.