受粉樹制約と作業別熟練度を組み込んだリンゴ作経営モデル

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要約

リンゴ作経営の特殊性を考慮して受粉樹制約と作業別熟練度を組み込んだリンゴ作の線形計画経営モデルを構築した。

  • 担当:東北農業試験場・総合研究部・経営管理研究室
  • 連絡先:019-643-3492
  • 部会名:経営
  • 専門:経営
  • 対象:果樹類
  • 分類:指導

背景・ねらい

リンゴは東北の主要果樹であるが、リンゴ価格の下落により収益が悪化しており、所得確保のため規模拡大や新技術導入などが求められている。それには受粉樹、作業熟練性が制約要因となっているが、これらを組み入れたモデルはない。そこで、リンゴ作で特徴的な受粉樹制約や作業熟練度を組み込んだ線形計画経営モデルを構築する。

成果の内容・特徴

  • マメコバチ、ミツバチなどによる虫媒受粉の普及により近年園地が混植状態となっている。リンゴは自家不和合性が強く同一品種による受粉が困難なため、他品種の植栽を必要とする。そこで最も収益性の高い「ジョナゴールド」、「ふじ」の植栽面積は、品種間の受粉適格性を考慮して、(1)「ジョナゴールド」の植栽面積は、「ふじ」と「ジョナゴールド」との合計、および「つがる」、「王林」、「ジョナゴールド」の合計それぞれ7割以下、(2)「ふじ」の植栽面積は、「ふじ」、「つがる」、「王林」の合計の8割以下になるように、受粉樹制約(品種比率制約)を設定した(表1、制約式1~3)。
  • JA江刺市リンゴ部会を対象としたアンケート分析の結果(表2)から、手作業の多いリンゴ作では熟練度の水準が3段階に分類できた。そこで熟練度別の労働力制約を設定した(表1、制約式4~118)。
  • 比例利益最大を目的関数とし、上記の受粉樹制約、熟練度別の労働制約を取り入れた植栽面積不定の線形計画モデル(使用ソフトは農研センター大石亘氏開発のXLP)を構築した(表1)。
  • 上記モデルを用い、夫婦一世代経営(男《熟練度高》、女《同中》各1人)を対象に、江刺産地の事例で、熟練度別の雇用条件と上限規模、期待所得の関係、および他産業並所得を得るための下限規模との関係を分析した。その結果、上限規模と期待所得は、(1)雇用を全く導入しない場合はそれぞれ約1.3ha、222万円(ケース1)、(2)熟練度低の雇用のみ導入する場合はそれぞれ約2.6ha、669万円(ケース2)、(3)熟練度低・中の雇用のみ導入する場合はそれぞれ約2.6ha、668万円(ケース3)となった。さらに下限規模約3.9ha(期待所得875万円)に達するには(ケース4)、新興産地である江刺産地では確保が困難とされる熟練度高の雇用1名の確保が必要となることが明らかになった(表3)。
  • ケース3を例として、熟練度制約を除くと、熟練度高・中の労働力制約を受けなくなること、雇用賃金が低くなることにより、期待所得は990万円と322万円過大に算出される(表4)。また受粉樹制約を除くと、「つがる」が減少し、「ジョナゴールド」、「ふじ」が増加することにより、期待所得は746万円と78万円高く算出される。このように熟練度制約、受粉樹制約はそれぞれ有効であり、熟練度制約の方が所得に大きな影響を及ぼすことが示される。

成果の活用面・留意点

  • 価格条件では、江刺産地は高単価産地(87年~96年平均で全国より19%高い《東京中央卸売市場年報、JA江刺市資料》)である。

具体的データ

表1.単体表モデル

 

表2.規模別の作業熟練度のちがい

 

表3.リンゴ作経営の期待所得

 

表4.制約条件の違いによるリンゴ作経営モデル

 

その他

  • 研究課題名:リンゴ生産経営における新技術の経営的評価
  • 予算区分 :超省力園芸
  • 研究期間 :平成12年度(平成9~12年度)
  • 研究担当者:長谷川啓哉、折登一隆、宮武恭一、角田 毅
  • 発表論文等:
    • リンゴ新興産地における家族経営補完組織の役割-農事組合法人小倉沢リンゴ生産組合の「わい化栽培」導入を事例として- 1999年度日本農業経済学会論文集、p44~48、1999年。
    • 岩手県江刺リンゴ産地における葉とらず栽培の導入効果 経営管理プロジェクト研究成果集NO.5、農業研究センター、p103~112、2001年。