純CO2ガス放出方式のFACE装置

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要約

ブロワーを用いないで純CO2ガスを直接フィールドに放出する、軽量で低価格のFACE(開放系大気CO2増加)装置を開発した。

  • キーワード:FACE、開放系大気CO2増加、CO2、気候変動
  • 担当:東北農研・地域基盤研究部・連携研究第2チーム
  • 連絡先:019-643-3462
  • 区分:共通基盤・農業気象
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

21世紀半ばに予想される大気CO2濃度の上昇が、水稲・水田生態系に及ぼす影響を、FACE実験によって解明するために、水田への設置が容易で低価格の装置を開発する。とくに既往のFACE装置ではブロワーの気流攪乱による環境改変が問題になっているので、ブロワーを使わずに、ガス圧を利用して純CO2ガスを放出する新しい方式を開発する。

成果の内容・特徴

  • 液化炭酸ガスを気化し、約0.7MPaの圧力で試験圃場の制御装置に供給する。
  • 1片5mの園芸用の灌水チューブを水稲群落上約50cmに8角形に配置し、直径約12mのリングを作る。風上側3辺のチューブからCO2を放出する。無風時は1つ置きに4辺のチューブから放出し、10秒間隔で他の4辺と切り替える。リング中央の群落直上で大気をサンプルし、CO2濃度をCO2分析計で測定する。その濃度が設定値になるように、圧力制御弁の開度をPIDアルゴリズムで制御する。この制御プログラムをデータロガーに組み込む(図1)。チューブに供給されるガス圧は最大0.1Mpa程度である。
  • ブロワー型FACE装置では、直径30cm程度の配風ダクトと32本の放出パイプを圃場周囲に配置し、50m3/分程度の有圧ファンでダクトに希釈ガスを送る。これに対して本装置の資材は、灌水チューブ8本、それを支えるパイプハウス用直管24本、接続用の水道用ホース類で、いずれも市販品である。軽量なので軟弱な水田にも容易に設置できる。
  • FACE装置の動的制御性は、1分間の平均CO2濃度が、設定値の±10%に入る時間割合で評価する。時間割合は弱風域で低下するが、風速が1.5~2m/s以上でほぼ安定する (図2)。 本装置の期間平均割合は他のFACE装置に比べて低いが、同じ風速域で比較すると(図2棒グラフ)、 イタリアの装置と同程度、米国のBNL方式よりやや低い性能である。
  • リング中央のCO2濃度がほぼ設定値に維持されるのに対して、周囲では100ppm弱高くなる。0.3m/s以上の風速域では均一な分布が得られる (図3)。期間平均では、リング内の60%の面積で、設定値+15%以内の濃度を達成できる。この面積割合は米国の装置とほとんど差がない。
  • CO2消費量は約0.3 kg/m2 hで、米国のBNL方式と大差なく、イタリアのFACEの約1/4である。

成果の活用面・留意点

  • 2001年度に中国、オーストラリアで本仕様による装置が建設され、実験実施中である。
  • 放出チューブの高さが制御性に影響するので、草丈の伸張とともにチューブ高を上昇させる。
  • 風速が大きいほど時間・空間的制御性が向上するが、5m/s以上の強風では放出ガス量が不足する。強風地域では放出能力を増すための対応が必要となる。

具体的データ

図1 FACE制御装置の機器構成

 

図2 1分平均CC濃度が設定値の±10%以内に入る時間割合と風速の関係

 

図3.群落高におけるCO2濃度の水平分布

 

その他

  • 研究課題名:CO2倍増時の生態系のFACE実験とモデリング
  • 予算区分:戦略基礎
  • 研究期間:1998~2000年度
  • 研究担当者:岡田益己(東北農研)、Mark Lieffering、中村浩史(科学技術振興事業団)、吉本真由美(農環研)、金 漢龍(科学技術振興事業団)、小林和彦(農環研)
  • 発表論文等:1) Okada et al. (2001), New Phytologist 150: 251-260.