キノコ内で有用タンパク質を強力に生産するための発現ベクター

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要約

キノコで強く発現する遺伝子群のプロモーター、ターミネーターを組み込んだ発現ベクター3種類を新たに構築し、大量に有用タンパク質を生産する手法を提供する。この発現ベクターを用いることにより、キノコの性質を変化させ、有用酵素等を多量に生産することが可能となる。

  • キーワード:キノコ、有用タンパク質生産、遺伝子発現ベクター
  • 担当:東北農研・作物機能開発部・加工利用研究室
  • 連絡先:024-593-6178
  • 区分:東北農業・流通加工
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

東北地方は季節による気温変化が著しいため、他地域以上に多種多様なキノコが山野に自生している。一部のキノコには、レクチンなど抗ガン作用を持つタンパク質、ダイオキシン、リグニン、農薬等の複雑な化学物質を分解する酵素を作り出す能力がある。しかし、そのような有用タンパク質の生産量は少ない。そこで、キノコ類におけるモデル生物であるスエヒロタケを素材として、任意の有用タンパク質をキノコ内で大量に生産することが可能な、遺伝子発現ベクターを提供する。

成果の内容・特徴

  • 3種類の遺伝子発現ベクターpSC3-P/T、pGPDH-P/T及びpAct-P/T(図1)は、各々キノコが菌糸の状態にあるとき最も大量に合成するタンパク質の遺伝子(SC3;ハイドロフォービン)、生物が常時多量に合成するGPDH及びβアクチンのプロモーターとターミネーター領域を持つカセットベクターである。NcoI-XbaIサイトに任意のタンパク質遺伝子を挿入して、キノコ内で大量に発現させることが出来る。
  • 作製した遺伝子発現ベクター内に様々な遺伝子を挿入し、キノコに導入することで、目的のタンパク質を大量に生産させ、キノコの性質を変化させることが出来る。例として、キノコ子実体形成を抑える遺伝子の発現(図2、図3)、キノコに抗生物質耐性を与える遺伝子の発現(図4)を示す。

成果の活用面・留意点

  • 今回ベクター構築に用いたプロモーター、ターミネーター遺伝子は、スエヒロタケ由来のため他のキノコ中では発現が弱い可能性もある。この場合それぞれのキノコから、ハイドロフォービン等からのプロモーター、ターミネーター遺伝子を組み込むことで、それぞれのキノコに適した高発現ベクターを構築することができる。
  • 生産させようとする有用タンパク質がキノコ由来の物でない場合、遺伝子が発現しないことも考えられる。本法は、キノコが元来持つ有用遺伝子を、大量に発現させることに適した系である。

具体的データ

図1.キノコ用遺伝子発現ベクターの構造

 

図2.スエヒロタケのキノコ形成を抑制する遺伝子(変異型ScGP-C)の、スエヒロタケへの導入。図3.スエヒロタケ内で強制的に生産された、変異型ScGP-C遺伝子の作用

 

図4.βアクチン-遺伝子発現ベクターを用いた、スエヒロタケへの抗生物質分解能力の付与

その他

  • 研究課題名:キノコ子実体形成時に働く情報伝達機構の解明
  • 予算区分:交付金プロ(形態生理)
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:山岸賢治、木村俊之、鈴木雅博、中村洋、新本洋士