ツーリストの牧野への旅行満足度と牧野保全に関する意識

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要約

安比牧野を訪れたツーリストは多様な属性や意識を持つが、旅行に関する評価項目のうち、景観、生態系等には非常に満足しており、交通、施設等にも満足している。また、基金や入場料の支払いなど、牧野の保全費用を受益者負担する意思が強い。

  • キーワード:牧野、草地、保全、ツーリスト、ツーリズム、レクリエーション
  • 担当:東北農研・総合研究部・農村システム研究室
  • 連絡先:電話019-643-3493、電子メールmegumih@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

近年、牧野を利用したツーリズムへの期待が高まっており、牧野のレクリエーション機能等を評価する研究が求められている。本研究では、ツーリストの牧野への旅行満足度及び保全に関する意識にを明らかとするため、岩手県安代町安比牧野で調査を行った。なお、安比牧野はブナの二次林やシバ型草地等を含み、団体客や個人客など年間2万人が訪れているが、近年、放牧中止による草地減少が問題となっている。

成果の内容・特徴

  • 牧野を利用するツーリストの属性、旅行行動、意識は多様であるが(表1)、旅行への評価は全体的に非常に高い(表2)。ツーリストの旅行前の期待である「事前評価」と旅行後の「事後評価」は、全体的に景観、生態系等で高く、交通や施設等で比較的低かったが、事後評価が事前評価を下回ることはなく、全ての要素で「満足」となっている。学習会等により充実した旅行体験が得られている「講座」は、ほとんどの項目で事後評価が最も高い。リピーターが多い「日帰り」では、食事、商店等の事後評価が低かったが、事前評価も低いため「満足」と評価されている。初めての訪問者の多い「宿泊」では、多くの項目で、事後評価が事前評価を上回っており、思いがけない感動などに基づく高い満足度が得られている。
  • 草地部分を「是非残して行きたい」という回答は全体の6割を占めている。保全方法は、草刈(30%)、放牧(29%)が多く、「日帰り」「宿泊」等のタイプによる差は小さいが、「放置/植林」という回答は「日帰り(21%)」「宿泊(19%)」よりも「講座(10%)」が少ない。保全の負担は、費用は町(37%)、国民(27%)、労力は公的機関(42%)など、公的負担が優先的にあげられていたが、観光客(17%)、ボランティア(25%)などの受益者をあげる回答もみられた。また、「立入制限や入場料」に賛成するツーリストは84%を占めた(表1)。
  • 「景観保全基金」を仮に作った場合の年間支払意志額を、仮想市場法によって推計すると、支払意志額は、1人あたり年額の平均値が2,230円、中央値が1,070円となった(表3)。支払意志額は、宿泊の有無や来訪回数と有意な相関は無いが、自然・文化が目的で満足度が高いツーリストほど高く、支払意志額の高いツーリストは「講座」に多く含まれると考えられる。
  • 実際の安比牧野における放牧による草地管理費用の試算額は、年間約34万円である(表4)。ツーリストが十分負担できる金額であり、観光施設等のない牧野における、今後の、ツーリストによる基金や入場料等の受益者負担による草地保全の可能性を示している。

成果の活用面・留意点

牧野の保全の枠組みに、ボランティアや入場料等の受益者負担を導入する際の参考となる。

具体的データ

表1 ツーリストの特徴 表2 ツーリストの事後評価と満足度

 

表3 ツーリストの支払意志額 表4 放牧による管理費用の試算

その他

  • 研究課題名:畜産振興を核とした地域複合化システムの策定
  • 予算区分:赤肉生産
  • 研究期間:2000~2001年度
  • 研究担当者:大橋めぐみ、川手督也、澁谷美紀、須山哲男、近藤恒夫
  • 発表論文等:1)大橋ら(2002)東北農研総合研究(A)3:13-38