冷温により顕著な発現変動を示す穂ばらみ期のイネ葯遺伝子
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要約
ジャスモン酸生合成遺伝子OPDAR1、タンパク質分解酵素様ドメインを持つ機能未知遺伝子Radc1、ポリアミン生合成遺伝子SAMDC1は、穂ばらみ期の冷温ストレスによりイネ葯で顕著な発現変動を示す。
- キーワード:穂ばらみ期耐冷性、小胞子初期、ポリアミン、ジャスモン酸、転移因子
- 担当:東北農研・地域基盤研究部・環境生理研
- 連絡先:電話019-643-3467、電子メールtomyamag@affrc.go.jp
- 区分:東北農業・生物工学
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
東北・北日本の稲作にとって最も重要な問題の一つに冷害があり、冷温による発育障害発生の分子機構に基づいた効率的選抜や遺伝子導入による高度耐冷性イネの作出が望まれる。しかし、穂ばらみ期、とりわけ小胞子初期の冷温による花粉の発育障害発生機構については、関与するタンパク質や遺伝子を含めほとんど明らかにされていない。そこで、花粉発育過程で冷温ストレスによって変動する遺伝子群の発現パターンを網羅的に解析することにより、冷温障害発生機構に強くリンクする遺伝子を特定し、その機能を解明することを目的とする。
成果の内容・特徴
- 耐冷性の強い北海道早生品種「はやゆき」の葯から抽出したRNAを用いて、cDNAクローン8987個からなるマイクロアレイへハイブリダイゼーションを行い解析したところ、最高冷温感受性期である小胞子初期から冷温耐性を獲得していく小胞子中期にかけて、冷温処理に応答して転写因子・シグナル伝達から各種の代謝に至るまで非常に多様な遺伝子群の発現増加・減少が起こっている(表1)。
- とりわけ、小胞子初期の冷温処理により、ジャスモン酸生合成遺伝子OPDAR1(12-oxo-PDA還元酵素1)とタンパク質分解酵素に類似のドメインを持ち葯での発現量が非常に多い機能未知遺伝子Radc1(Rice anther down-regulated by cool temperature 1)の発現レベルが顕著に低下し、逆に、ポリアミン生合成遺伝子SAMDC1(S-アデノシルメチオニン脱炭酸酵素 1) の発現レベルが顕著に上昇する(図1)。
- Radc1遺伝子の上流域の配列の一部分が、塩・乾燥ストレス応答性のイネOsSalT遺伝子上流域に含まれる、転移因子MITE (Miniature inverted-repeat transposable element) の一種であるCastaway配列365bpと84%の相同性を示す(図2)。このOsSalT遺伝子はマイクロアレイ上にも含まれていて、冷温で発現が抑制されるというRadc1と同様のパターンを示す(図1)。
成果の活用面・留意点
- cDNAのセンス・アンチセンス配列、あるいは、対応する遺伝子のプロモーター配列にレポーター遺伝子を連結したコンストラクトをイネに導入すること等により、発現調節機構を含めた遺伝子の機能解析をさらに詳細に行う必要がある。
具体的データ



その他
- 研究課題名:イネ花粉発育過程において冷温ストレスに応答して発現の変化する遺伝子
- 予算区分:マイクロアレイ(イネゲノム)
- 研究期間:2000~2002年度
- 研究担当者:山口知哉、林高見、小池説夫
- 発表論文等:1) Yamaguchi et al.(2002) Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 66(6):1403-1406.