ウシおよびブタの発育途上卵母細胞の効率的な培養システムの開発

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要約

ウシおよびブタの発育途上卵母細胞と体細胞の複合体を、高濃度のポリビニルピロリドンを培養液に添加する開放型培養システムで長期間培養することにより、高い生存率と成熟率が得られる。

  • キーワード:卵母細胞、発育、ポリビニルピロリドン、開放型システム、ウシ、ブタ
  • 担当:東北農研・畜産草地部・育種繁殖研究室
  • 連絡先:電話019-643-3542、電子メールyujih@affrc.go.jp
  • 区分:東北農業・畜産、畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

ウシやブタの卵巣内に存在する発育途上卵母細胞の多くは卵巣内で失われるが、培養技術でそのような卵母細胞を救うことができれば、優良家畜の増産や育種改良に利用できる。しかし、長期間に渡って卵母細胞の発育を維持し、成熟能力を獲得させる培養技術は、マウスを除いて確立されていない。ウシやブタではコラーゲンゲル等を使った方法が報告されているが、卵胞内の環境をゲル内で再現するための技術的な制約が大きく、大量培養に適さないなどの問題点がある。本研究は、効率よく成熟卵子を得ることのできる簡便な開放型システムを開発することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 培養液に4%(w/v)のポリビニルピロリドン(PVP、平均分子量36万)を添加することにより、コラーゲンゲル包埋型システムよりも簡便な発育途上卵母細胞の開放型培養システムが構築できる(図1および2)。
  • 初期胞状卵胞から採取したブタの発育途上卵母細胞を5%ウシ胎子血清を含む培養液で12日間培養すると、生体内に類似の形態が維持される割合がPVP4%区において無添加区よりも有意に高い(図3)。また、性腺刺激ホルモンで成熟誘起した後の第二減数分裂中期への成熟率もPVP4%区において高い(図3)。卵母細胞の平均直径±標準偏差は、培養前の102.7 ± 3.6 μmからPVP4%区では123.6 ± 6.5 μmへと増大し、生体内で発育を完了した卵母細胞と同等になる。
  • ウシの発育途上卵母細胞に13~14日間の発育培養を行い、体外成熟、体外受精を行って受精卵の培養を行うと、発育培養に供試した卵母細胞数に対する胚盤胞期胚の割合は、PVP4%区において無添加区よりも高い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 従来捨てられてきた発育途上卵母細胞を利用する道が拓け、卵子資源の有効利用が期待できる。
  • 培養中の観察や卵母細胞への接触がコラーゲン包埋型システムや卵胞培養よりも容易であり、他の技術と組み合わせることも可能である。
  • PVPの添加濃度は4%よりも高めることが可能だが、その効果や培養液の粘度、比重等の作業性への影響を考慮すると4%程度が好適である。
  • PVPに代えてフィコール(平均分子量40万)を添加した場合にも類似の効果が認められる。

具体的データ

図1.コラーゲンゲル包埋型システム

 

図2 PVP4%区における培養7日後のウシ卵母細胞と体細胞の複合体 図3 培養12日後におけるブタ卵母細胞・体細胞複合体の回収率及び成熟培養後の第二減数分裂中期への成熟率±標準誤差

 

表1 体外発育させたウシ卵母細胞の体外成熟・受精後の発生率

その他

  • 研究課題名:家畜発育途上卵母細胞の有効利用システムの開発
  • 予算区分:パイオニア特別研究
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:平尾雄二、志水学、伊賀浩輔、竹之内直樹、永井卓
  • 発表論文等:1) Hirao et al. (2002) J. Mamm. Ova Res. 19:12-20
                      2) 特許出願、「卵母細胞の培養方法及び発育方法」、特願2002-346327