アカウシアブの飛来密度が放牧牛の行動に与える影響
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要約
アカウシアブが多数発生する牧野では、牛はアカウシアブの加害を避けるため、行動圏や庇蔭休息場所を変化させる。これにより草地に未利用部分が生じて荒廃を招くとともに、牛の庇蔭条件が悪化する。
- キーワード:アカウシアブ、放牧牛、行動圏、草地、庇蔭休息場所
- 担当:東北農研・畜産草地部・家畜環境研究室
- 連絡先:電話019-643-3407、電子メールsiraisi@affrc.go.jp
- 区分:東北農業・畜産
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
アカウシアブは放牧牛に対し、他のアブに較べより強いストレスを与えると考えられているが、この種への有効な防除法は、現状では炭酸ガストラップによる捕殺だけであるため、他のアブに較べ防除が困難で有効な防除はなされていない。
本研究は、アカウシアブによる放牧牛のストレスを軽減するため、アカウシアブの飛来密度と放牧牛の行動の関係を明らかにして、防除の要否、牧区や庇蔭林、転牧順序の設定等を行う際の参考資料とすることを目的とした。
成果の内容・特徴
- アカウシアブ飛来密度の低い放野(東北農研、日中6時間に牛1頭当たり1以下)では、放牧牛はアカウシアブの加害行動に対して強い忌避を示しほぼ100%追い払う。一方、飛来密度の高い牧野(秋田県鹿角市川嶋牧野)では、慣れにより忌避の度合いが弱まるため、追い払い率が低下し、アカウシアブが飽血できる場合が増える(表1)。
- 川嶋牧野のアカウシアブの幼虫生息地となる湿地を含むため成虫発生数が多い試験牧区の牛は、7月下旬から8月中旬のアカウシアブの多発期、風通しの良い林内でなく、アカウシアブから逃れるため、通気が悪く庇蔭効果が低いが外部から視覚的に完全に遮蔽されるブッシュを休息場所として利用する(図1)。
- 幼虫生息地を含まず成虫発生数の少ない川嶋牧野の一般牧区の牛は、アカウシアブ多発期、試験牧区から300m以内の牧区の境界から見通せる場所には利用、発生期間外及び低密度時に利用する試験区側の庇蔭休息場所も利用しない(図2)。発生地から離れた場所で行動することにより、アカウシアブの飛来密度が試験牧区より低下するが、忌避の強さには差はない(表2)。
- 一般牧区の牛が利用しなかった場所では、草が出穂後、枯死し草地の荒廃が認められる。
- アカウシアブ飛来密度の低い牧野では、牛はアカウシアブの加害行動に対して強い忌避を示すが、行動圏や庇蔭休息場所の変化は無い。一方、飛来密度の高い牧野では強い忌避行動は見られないが、行動圏や庇蔭休息場所の変化およびそれに伴う草地の荒廃が見られる。
成果の活用面・留意点
- アカウシアブ防除の要否は、アカウシアブの加害に対する牛の直接的な忌避行動の強さではなく、牛の行動圏の変化等をもとに検討する必要がある。
- アカウシアブの多発する牧野では、牧野内でのアカウシアブ発生状況に合わせた、牧区設定、転牧計画、庇蔭休息場所の確保が必要である。また、アカウシアブの発生地が明確な場合は、発生地付近からの分散を抑制するため、発生地付近へのトラップ設置を検討することも必要である。
具体的データ



その他
- 研究課題名:放牧牛に対する害虫の加害と被害の解析
- 予算区分:(交付金)
- 研究期間:1998~2002年度
- 研究担当者:白石昭彦