大気炭酸ガス濃度上昇によりイネいもち病および紋枯病は発病しやすくなる

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要約

開放系CO2濃度増加条件(FACE)で生育したイネはいもち病および紋枯病に罹りやすくなる。いもち病はCO2高濃度条件下で発現する病斑数が多くなり、紋枯病は初発時の発病株率が高く、さらに発病株率の増加速度が高い。

  • キーワード:イネ、いもち病、紋枯病、地球環境、CO2濃度
  • 担当:東北農研・地域基盤研究部・病害管理研究室、連携研究第1チーム、連携研究第2チーム、
            東京大院・農学生命科学研究科
  • 連絡先:電話019-643-3465、電子メールishiguro@affrc.go.jp
  • 区分:東北農業・生産環境(病害)、共通基盤・病害虫
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

大気中のCO2濃度は年々上昇し、50年後には現在よりも約200ppm上昇する可能性が指摘されており、地球環境への影響が懸念されているが、作物の病害に及ぼす影響はほとんど知られていない。イネは世界の人口の相当部分が主食とする重要作物であるため、その主要病害であるいもち病および紋枯病の発生に及ぼす影響は極めて重要な知見である。ところが、環境調節装置内における実験では、作物の生育や病害の病勢進展に対して装置の影響がおよぶ可能性がある。そこで、開放系CO2濃度増加試験(FACE)圃場でいもち病および紋枯病の発病進展を調査し、それに影響する要因を推定する。

成果の内容・特徴

  • FACE試験圃場において、CO2濃度が通常より約200ppm(1998~2004年:181~227ppm)高い試験区では、葉いもちおよび紋枯病の発病程度は通常大気区に比べ有意に高い(表1、2)。
  • 穂いもちは1998年に自然発病で高CO2濃度区の発病程度が2.6、通常大気区が1.1と有意な差で高かった例がある。
  • 同一条件でいもち病菌を噴霧接種しても、高CO2条件下では発現する葉いもち病斑数が有意に多い(表1)。
  • 自然発病した紋枯病は、高CO2条件下で初発時の発病株率が高く、さらに発病株率の増加速度も高い(表2、図1)。
  • 高CO2条件下ではイネ体最上位展開葉の珪素(Si)含有量(%)が通常大気区のイネよりも低く、これがいもち病に罹りやすい素因となっている可能性がある(表3)。
  • 高CO2条件下では、イネ体の株当たり分げつ数が多くなり、気中菌糸による隣接株への伝染が容易となって紋枯れ病の発生を助長している可能性がある(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 大気CO2濃度が上昇するとイネの主要病害であるいもち病および紋枯病の発病リスクが高まることを前提に、栽培法や防除対策を考える必要がある。
  • 地球環境保全のための政策を推進する根拠がより明確となる。
  • 高CO2条件下では光合成速度が高く、多窒素条件ではイネ体のバイオマスが大きくなる。そのため、珪素(Si)濃度はやや低くなる。また、高CO2条件下では気孔抵抗が高まるので、蒸散による葉へのSi転流は抑えられると考えられる。高温年はCO2濃度に関わらず、蒸散量が十分あるため、両区の葉身Si含量に差がない可能性がある。

具体的データ

表1 通常大気および高CO2条件下おいていもち病菌を接種 したイネ(あきたこまち)に発現した葉いもち病斑数

表2 通常大気および高CO2条件下における紋枯病の 発病株率および茎数図1 通常大気および高CO2条件下で生育し たイネで自然感染した紋枯病の発病株率の 推移。

 

表3 通常大気および高CO2条件下におけるいもち病菌接種時のイ ネ体最上位完全展開葉の珪素(Si)および全窒素(N)含量

その他

  • 研究課題名:温暖化と大気CO2増加が農作物と病虫害に及ぼす影響の解明
  • 課題ID:05-08-04-01-03-04
  • 予算区分:環境保全
  • 研究期間:1998~2004年度
  • 研究担当者:石黒 潔・小林 隆・岡田益己・小林和彦(東大院)