放牧で仕上げた日本短角種の肉質
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要約
肥育の仕上げに放牧を行った日本短角種の肉は、抗酸化ビタミンであるビタミンEおよびβ-カロテンの含量が高く、貯蔵中のドリップロスが少なく、また脂肪酸の組成が推奨値を満たしているが、貯蔵中の変色の原因となるメトミオグロビンの生成が速い。
- キーワード:日本短角種、放牧、ドリップロス、脂肪酸、変色、肉用牛、畜産物・品質
- 担当:東北農研・総合研究部・総合研究第2チーム
- 連絡先:電話019-643-3412、電子メールmuramoto@affrc.go.jp
- 区分:東北農業・畜産、畜産草地
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
日本短角種の肥育は濃厚飼料多給方式で行われているが、霜降りの肉にはなりにくい。したがって、日本短角種の肉の価値を高めるためには、肉に霜降り以外の特徴を持たせることが必要である。そこで、日本短角種の肥育の仕上げに放牧を行い、生草の機能性成分を肉に蓄積させ、肉質の向上を図る。
成果の内容・特徴
- 貯蔵中の肉から肉汁が流れ出るのは、肉の細胞膜が酸化されて破れてしまうためであるが、日本短角種の肥育の仕上げに放牧を行うと、貯蔵中に損失する肉汁(ドリップロス)がロース肉で約4割少なくなる(図1)。
- 放牧仕上げによってドリップロスが少なくなるのは、生草に多く含まれ抗酸化性があるビタミンEおよびβ-カロテンの含量が、ロース肉で約3倍に増える(表1)ことにより、細胞膜の酸化が抑えられるためであると考えられる。
- 摂取する食品のn-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の比(n-6:n-3比)が高いと、心疾患を引き起こす血塊形成の原因になるため、n-6:n-3比は4以下であることが推奨されているが、放牧で仕上げた日本短角種のロース肉はこの推奨値を満たしている(表1)。
- 一般に抗酸化ビタミンの含量が高い肉は、肉の色素の酸化(メトミオグロビン生成)が抑えられるため変色しにくいが、放牧で仕上げた日本短角種のロース肉は、抗酸化ビタミンの含量が高いにもかかわらず、メトミオグロビン生成が速い(図2)。
- 放牧仕上げによって変色が速くなるのは、酸化されやすい脂肪酸の割合がロース肉で約4倍に増え(表1)、脂肪酸の酸化を抑える際に発生するフリーラジカルが増え、このフリーラジカルがメトミオグロビン生成を促進することが一因と考えられる。
成果の活用面・留意点
- 日本短角種去勢牛8頭を10カ月齢から濃厚飼料制限給与で肥育し、4頭を19カ月齢から牛舎内において濃厚飼料制限給与で8カ月間肥育して屠畜し(慣行肥育、616kg)、残りの4頭を19カ月齢から補助飼料の給与なしで4カ月間放牧し、放牧終了直後に屠畜した(放牧仕上げ、439kg)結果である。
- 放牧地は岩手県岩泉町の半自然草地(スゲ類優占)である。
- ロース肉の粗脂肪含量は、放牧仕上げが1.4%、慣行肥育が3.7%である。
- 牛肉は、メトミオグロビン割合が30%を超えると変色したと判断される。
- 放牧で仕上げた日本短角種の肉の変色を遅くするためには、今後の調査が必要である。
具体的データ



その他
- 研究課題名:地域自給飼料多給を主体とする赤肉生産及び肉質制御技術の開発
- 課題ID:05-01-04-01-13-04
- 予算区分:日本短角種
- 研究期間:2002~2006年度
- 研究担当者:村元隆行、東山雅一、近藤恒夫
- 発表論文等:Muramoto et al. (2005) Asian-Aust. J. Anim. Sci. 18: 420-426.