イベルメクチンはフトミミズとヒメミミズに対し生存率を低下させない

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要約

草地性のフトミミズとヒメミミズは、イベルメクチンを含有した牛糞を忌避することなく糞内と周辺の土壌に生息し、ポアオン法による牛への駆虫薬投与で糞に移行する濃度では生存率を低下させない。

  • キーワード:放牧、ウシ、フトミミズ、ヒメミミズ、イベルメクチン、生存率、ポアオン法
  • 担当:東北農研・畑地利用部・上席研究官、畑土壌管理研究室、家畜環境研究室
  • 連絡先:電話024-593-6173、電子メールyama@affrc.go.jp
  • 区分:東北農業・畜産、畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

日本の放牧飼養ではイベルメクチン系の内部寄生虫駆除薬が普及しつつあるが、イベルメクチンは昆虫や線虫など広範な無脊椎動物に対し生育阻害効果を示すこと、またその有効成分の大部分が牛糞中に排泄されるため、牛糞を分解するミミズ等の生存率などの低下が危惧されている。これまで欧米の草地における主要種であるツリミミズ類に対する駆虫薬の影響に関する研究はあるが、日本における草地のミミズの優占種であるフトミミズ類や個体数が多いヒメミミズ類を対象とした研究は全く行われていない。そこでイベルメクチンがこれらのミミズの生存に及ぼす効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 駆虫薬のポアオン法(牛背線へ薬剤を滴下する方法)投与で糞内に排出されるイベルメクチンの平均ピーク濃度(0.15ppm)をもとに、牛糞をイベルメクチン含有率が0.1ppmまたは1ppmになるように調整して草地に置くと、フトミミズ類はその糞を忌避することなく、無添加の牛糞と同様に集まり、糞を摂食する(図1)。このことはフトミミズが駆虫薬投与牛の放牧糞に含まれるイベルメクチンの影響を受ける可能性を示す。
  • 草地のフトミミズの普通種であるヘンイセイミミズ(Amynthas heteropodus)を、OECDの急性毒性試験法に準じた人工土壌に放し、所定濃度のイベルメクチンを含有した牛糞を与えると、ミミズは供試牛糞を食べるが、イベルメクチン濃度が0.001~10ppmの範囲では生存率は低下しない(図2)。
  • ヒメミミズ類も、イベルメクチン含有糞を草地に設置すると、忌避することなく、牛糞と周りの土壌に生息する(図3)。このことはヒメミミズが駆虫薬投与牛の放牧糞に含まれるイベルメクチンの影響を受ける可能性を示す。
  • ヒメミミズの1種であるヤマトヒメミミズ(Enchytraeus japonensis)を用いたOECDの急性毒性試験法に準じた薬剤含浸濾紙法では、イベルメクチン濃度が0.1~1000ppm以下の範囲ではミミズの生存率は低下しない(図4)。
  • ミミズ類は、ポアオン法投与で牛糞へ移行するイベルメクチン濃度より高くても、そ の生存率が低下しないことから、放牧牛に対するイベルメクチン系駆虫薬投与がミミズ 類の生存へ及ぼす影響は小さいことが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 放牧牛に対するイベルメクチン系駆虫薬の施用の意思決定に資する。
  • 本試験は、生存率に関する急性毒性試験であり、繁殖や発育などの慢性毒性的影響については行っていない。

具体的データ

図1  糞内イベルメクチン(Ive)濃度とフトミミズの個体数 図2 糞内イベルメクチン(Ive)濃度とフトミミズの生存率

 

図3 糞内Ive濃度とヒメミミズの個体数 図4 薬剤濃度とヒメミミズ生存率

その他

  • 研究課題名:牛糞分解性動物をモニタリング指標とした牛用駆虫薬が草地生態系に及ぼす影響の解明
  • 課題ID:05-05-08-01-05-04
  • 予算区分:公害防止
  • 研究期間:2004~2004年度
  • 研究担当者:山下伸夫、金田 哲、内田智子、島野智之、吉田信代