東北地方の一部でみられる農外要因による農業専従者の増加現象

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要約

東北地方では1990年以降青森県を中心に農業専従者が増加したが、その多くは不況等の要因によってもたらされており、かつその労働力が未だ生産拡大に結びついていないことを確認した。

  • キーワード:農業労働力、農業専従者、農業センサス、不況帰農、地域労働市場
  • 担当:東北農研・総合研究部・動向解析研究室
  • 連絡先:電話019-643-3491、電子メールhori@affrc.go.jp
  • 区分:東北農業・経営、共通基盤・経営
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

東北地域の近年の農業労働力の動向をみると、全体として農業従事者数は漸減傾向にあるが、農業専従者(1年間に農業に150日以上従事した者)の推移動向には地域差がある。1990年から1995年にかけて、東北6県全体では農業専従者が減少したが、青森県のみ35%(実数で19,509名)増加し、1995年から2000年にかけては、秋田県および福島県で微増に転じた(青森では飽和状態から減少に転じた)。これらの現象をもたらした要因を農業センサス個票分析(「総統審第128号(平成14年3月2日)」)および現地聞き取り調査で明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 1990年から1995年の青森県の有効求人倍率は他県に比して際立って低い(1990年0.62、1995年0.32)。この間の農業従事日数別の農家世帯員のコーホート変化を実数でみると、「1~29日」層の減少パターンと「150日以上」層の増加パターンがほぼ一致していることから、手伝い的農業従事者が、農業専従者に転じたと判断できる(図1)。
  • この間の作目別販売金額1~3位に施設野菜が入る農家における農業専従者の増加(1,988人)は全増加数の1割程度であり、周年就業が可能な施設野菜栽培へのシフト(栽培面積は75%増加)が、1における増加の主たる要因とはみなしがたい。
  • また、1995年の県内農業粗生産額も1990年比108%(「食料用農産物」卸売物価指数でデフレート)に留まっており、1990年から1995年における青森県の農業専従者増加は、農業側のpull要因ではなく、農外就業し手伝い的に農業従事していた層が、離職・退職等で農業専従者へ移行した可能性(農外からのpush要因)が高い。
  • 1995年時点で青森県に次いで有効求人倍率の低かった秋田県では、1995年から2000年にかけて農業専従者が男女共に増加した。601名の増加があった県北のO市を対象として、世帯員の追跡が可能な2000年構造動態マスタを用いて集計したところ、増加した農業専従者の多くは農産物販売金額200万円未満の販売農家の世帯員である(表1)。また、減少傾向が最も顕著であった「販売金額100~200万円で専従者無し」の階層間移動をみると、1995年時点で523戸あり、そのうちの27%が2000年時点で農業専従者を持つに至ったが、上位の階層に移行したのはそのうち僅か20戸で、この間の米価下落や生産調整の影響を考慮しても、労働力が生産を拡大したという状況にはない(表2)。
  • この間の農外就業状況については、O市農林課、ハローワーク等での聞き取り調査により、衣料等の製造業不況(市内製造業従事者数は1990年から減少に転じ、2000年には 1990年時の81%となった)で農外に労働力の受け皿が無くなったことを確認した。以上により、O市における農外専従者の増加も、1990年から1995年においての青森県での増加と同様、農外からのpush要因による「不況帰農」であることが確認できた。

成果の活用面・留意点

  • 農業経営内で活用不十分な農業労働力の存在とその活用施策の必要性を示す情報となる。

具体的データ

図1:青森県における年間従事日数別1990~1995年コーホート変化

 

表1 秋田県O 市における販売金額と保有農業専従者数別に見た農家戸数の増減

 

表2 O 市の1995 年時点「販売金額100~200万円で専従者無し」階層の移行状況

その他

  • 研究課題名:東北農業の動向変動要因の解明と類型区分
  • 課題ID:05-01-01-01-02-04
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2004年度
  • 研究担当者:堀川 彰
  • 発表論文等:1) 堀川 (2003) 農業経営通信 215:10-13.
                      2) 堀川 (2004) 農業経営通信 221:10-13.
                      3) 堀川 (2003) 中央農業総合研究センター経営研究54:95-102.