高アミロースコムギ選抜用DNAマーカー
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要約
普通系コムギにおけるアミロペクチン合成の主要酵素の一つである可溶性澱粉合成酵素(SSII-A1、B1、D1)遺伝子に生じた変異を確認するDNAマーカーである。本マーカーによりSSII酵素を完全に欠く高アミロースコムギの効率的選抜が可能となる。
- キーワード:コムギ、澱粉、高アミロース、可溶性澱粉合成酵素、DNAマーカー
- 担当:東北農研・作物機能開発研究部・生物工学研究室(DNAマーカーチーム)
- 連絡先:電話019-643-3514、電子メールtnaka@affrc.go.jp
- 区分:東北農業・生物工学、作物・生物工学
- 分類:科学・普及
背景・ねらい
澱粉の主要構成要素はアミロースとアミロペクチンである。アミロペクチンの合成過程には複数の酵素が関与するが、その中の一つであ
る可溶性澱粉合成酵素(Soluble
Starch Synthase
IIa:SSIIa)が欠失するとアミロペクチンの鎖長構造が大きく変化すると同時に、澱粉中のアミロース含量が1.3倍程度増加することが最近判明し
た。高アミロースコムギは、食品あるいは工業産業における新規素材として利用可能と考えられる。そこで本研究では、A、B、Dゲノム由来の3種の
SSIIa酵素、SSII-A1、-B1、-D1をそれぞれ欠く変異体を用いて、それら酵素遺伝子の変異をDNAレベルで明らかにすると同時に、その変異
部分を検出するDNAマーカーを開発し、高アミロースコムギを効率的に選抜する方法を確立する。
成果の内容・特徴
- 普通系コムギの野生型SSIIa遺伝子、wSSII-A1、-B1、-D1(それぞれ酵素SSII-A1、-B1、-D1に対応)は、いずれも8エクソンからなり、3遺伝子間の相同性は82-87%である。
- Chosen57のSSII-A1欠失は、同酵素遺伝子の第1エクソンとイントロンにまたがる289bpの欠失と8bpのフィラーDNA挿入変異による。(図1-A)。
- 関東79号のSSII-B1欠失は、同酵素遺伝子の第8エクソンに存在する175bpの挿入変異による(図1-B)。
- Turkey116の SSII-D1欠失は、同酵素遺伝子の第5エクソンとイントロンにまたがる63bpの欠失変異による(図1-D)。
- 3組のPCR用プライマー(SSII-AF1、-AR1)、(SSII-BF1、-BR1)、(SSII-DF1、-DR1)により上記の3変異を確認できる(表1)。同プライマーセットは、同一PCR条件で使用できる(図2)。
- プライマーセットSSII-AF1、-AR1を用いると野生型SSII-A1遺伝子からは、
454bpの増幅産物が、変異型遺伝子からは173bpの増幅産物が得られる。同様にSSII-BF1、-BR1セットでは、野生型671bp、変異型
846bpの増幅産物が、SSII-DF1、-DR1では野生型558bp、変異型495bpの増幅産物が得られ(図3)、いづれも共優性マーカーである。
成果の活用面・留意点
- SSIIa酵素を完全に欠失した高アミロースコムギ選抜の選抜と同時に、同酵素を部分的に(3酵素中1ないし2を)欠く系統の選抜にも活用できる(図3)。
- 3プライマーセットを用いたMultiplex-PCRのためには、条件検討が必要である。
- 本研究成果は、タカラLA-Taq及びABI社GeneAmp9700PCR器を用いて得られたものであり、他社酵素、PCR機器を使用する場合は、PCR条件等の再検討を要する。
具体的データ




その他
- 研究課題名:
コムギ品種育成のためのDNAマーカー選抜システムの確立
- 課題ID:
05-06-05-01-20-04
- 予算区分:
(パイオニア特別・DNAマーカー)
- 研究期間:
2002∼2005年度
- 研究担当者:
中村俊樹、新畑智也(日本製粉)、Patricia Vrinten(JST)、齊藤美香(JST)、米丸淳一
- 発表論文等:
中村ら(2004)日本国特許:特開2005-333832
Shimbata et al.(2005) Theor.Appl.Genet.111:1072-1079