多孔質フィルム製ダクトを利用した根域冷却法

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

通気性と防水性を併せ持つ多孔質フィルム製のダクトを、水耕槽に設置して、送風処理すると、水耕液温が平均で約3°C程度低くなる。 また、多孔質フィルム製ダクトをポリエチレンチューブに入れた装置を圃場に設置すると地温が低下する。この冷却法を高温期のホウレンソウの栽培に適用する と、水耕および土耕で生育が促進される。

  • キーワード:多孔質フィルム、根域冷却、ホウレンソウ、ダクト
  • 担当:東北農研・野菜花き部・野菜花き作業技術研究室
  • 連絡先:電話019-643-3414、電子メールwww-tohoku@naro.affrc.go.jp
  • 区分:東北農業・野菜花き(野菜)、野菜茶業・野菜栽培生理
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

水耕栽培における培養液冷却法として、通気防水性を有する多孔質フィルム製のダクトを利用した低コストな冷却法を開発する。また、 地床栽培においても、多孔質フィルム製ダクトを利用した潜熱の利用による根域冷却法を開発する。これらの装置を利用し、根域の高温によって生育が抑制され るホウレンソウの生育促進を試みる。

成果の内容・特徴

  • 水耕液用冷却装置は、筒状に加工した多孔質フィルムにナイロンメッシュチューブを通したダクト(以下ダクト)を送風装置に接続したものであり、水耕槽内に設置する(図1)。地床栽培用の冷却装置はダクトをポリエチレンチューブに通し、チューブとダクトの間に注水し、ダクトを送風装置に接続したものであり、圃場表面に設置する(図1)。
  • 水耕栽培用の装置ではダクトへの送風処理により培養液が蒸発し、潜熱により培養液を冷却する。送風をしない場合は冷 却効果がない。地床栽培用装置は注水した水が送風処理により蒸発し、チューブ内の水を冷却し、伝熱により圃場を冷却する。水はサイフォンにより自動的に チューブ内に補給される。
  • 水耕栽培において、3.7W 程度の小出力のブロアーを用いて冷却した場合、20L の培養液温の平均値が3°C程度低くなる(図2)。これを用いて栽培したホウレンソウの地上部新鮮重が大きくなる(図4)。また、200Lの培養液の場合でも多孔質フィルムを複数本配置することで前述のブロアーでも約3°C培養液温が低下する。
  • 土耕栽培の冷却装置においては、300Wのブロアーを用いて延べ20mの冷却チューブに送風した場合、冷却チューブ直下の地温が平均で約2°C低下し(図3)、設置した装置付近(5cm離れた地点)で栽培するホウレンソウの生育が促進される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 自作した場合の多孔質フィルム製ダクトの材料費は210円/mである(多孔質フィルム30円、メッシュチューブ180円)。
  • フィルム自体はポリプロピレン製であり、紫外線によって劣化するため使用環境や保存には注意を要する。
  • 多孔質フィルムの加工はシーラーによる熱溶着によって行う。
  • ホウレンソウの土耕栽培においては冷却チューブから15cm離れた地点では地温の低 下がみられなくなるため、チューブを植物体近くに設置する必要がある。
  • 冷却装置は市販されている多孔質フィルムを用いて自作することが可能である。

具体的データ

図1 多孔質フィルムを利用した水耕栽培(A)および地床栽培(B)における根域冷却装置。地床栽培用装置は多孔質フィルム製ダクトをポリエチレンチューブに通し、多孔質フィルムとポリエチレンチューブの間に水を入れて使用する。

 

図2 多孔質フィルム製ダクトへの送風処理が水耕液温に及ぼす影響

 

図3 多孔質フィルム製ダクトを用いた冷却チューブによる地温の低下

 

図4 多孔質フィルム製ダクトを利用した根域冷却装置の利用がホウレンソウの生育に及ぼす影響。

 

その他

  • 研究課題名:トマト、レタス、ホウレンソウ等の生育阻害要因の解析
  • 課題ID: 05-04-02-02-07-05
  • 予算区分: 交付金
  • 研究期間: 2001∼2005年度
  • 研究担当者: 安場健一郎、屋代幹雄、松尾健太郎
  • 発表論文等: 安場ら(2006)園学雑 75(1):109-115