大気CO2濃度上昇による水稲倒伏の軽減効果

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要約

大気CO2濃度上昇は多窒素施用で多発する水稲の倒伏とそれに伴う収量の低下を軽減する。多窒素施用で下位節間が伸長するが、高濃度CO2下ではその伸長が抑制され、倒伏しにくくなる。

  • キーワード: 水稲、気象変動、倒伏、FACE、CO2
  • 担当:東北農研・地域基盤研究部・連携研究第2チーム
  • 連絡先:電話019-643-3462、電子メールmok@affrc.go.jp
  • 区分:東北農業・生産環境、共通基盤・農業気象
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

今世紀半ばに予想される約200ppmの大気CO2濃度上昇が、水稲の光合成を促進し子実収量を増加させること、その効果は多窒素条件で大きいことが明らかになってきた。従って将来の高濃度CO2環境下で多窒素栽培を行えば、高濃度CO2+多窒素の相乗効果によって、現在よりも30%以上収量水準を高めることが可能である。こうした環境適応型の栽培法を確立するためには、多窒素で助長されるマイナス要因、例えば病害感受性や倒伏に及ぼす高濃度CO2の影響評価が重要である。いもち病や紋枯病の感受性が高濃度CO2で高まることがすでに報告されたが、倒伏への影響については未解明である。そこで開放系大気CO2濃度増加(FACE)実験により、高濃度CO2が倒伏に及ぼす影響を解析した。

成果の内容・特徴

  • 倒伏は多肥区で基肥区や慣行区より2.6∼2.7ランク助長されるが、高濃度CO2はその程度を1ランク軽減する(図1)。
  • 地上部モーメント(稈長×一穂重)には、有意な処理間差が認められない(表1)。
  • 多肥による節間の伸長作用は、倒伏の折れ曲がり基点である下位節間で顕著となり、その伸長を高濃度CO2は有意に抑制する(図2)。
  • 登熟歩合は倒伏程度に比例して減少する(図3)。一方、千粒重には倒伏の影響が認められない(表1)。
  • 以上のことから、高濃度CO2は多窒素施用での下位節間の伸長を抑制し、倒伏を軽減する。その結果、倒伏による収量の低下が軽減される。

成果の活用面・留意点

  • 高濃度CO2は倒伏を軽減するものの、多窒素施用による倒伏の助長を完全に補うものではない。将来の高濃度CO2下に適した栽培技術の確立には、倒伏軽減を含めた育種目標、栽培法の策定が望まれる。
  • 本研究では、品種「あきたこまち」を用いた試験結果であり、それぞれの地域に適した品種また栽培体系における検証の必要がある。

具体的データ

図1 倒伏程度にCO2濃度と施肥窒素が及ぼす影響

 

図2 下位節間長(第V節間)にCO2濃度と施肥窒素が及ぼす影響

 

図3 登熟歩合と倒伏程度の関係

 

表1 地上部モーメント(稈長×一穂重)と千粒重

 

その他

  • 研究課題名: 温暖化と大気CO2増加が農作物と病虫害に及ぼす影響の解明
  • 課題ID: 05-08-04-01-03-04
  • 予算区分: 環境保全(地球環境保全)
  • 研究期間: 2002∼2004年度
  • 研究担当者: 下野裕之、岡田益己、中村浩史