植物の細胞膜と液胞膜の水透過率を計測・評価する新手法

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要約

植物組織から単離したプロトプラストと液胞の高張ソルビトール溶液中での収縮速度を顕微鏡下で計測し、その測定値を理論モデルに当てはめることにより、細胞単位の細胞膜と液胞膜の水透過率を分離して求めることができる。

  • キーワード:細胞膜、液胞膜、水透過率、アクアポリン、プロトプラスト
  • 担当:東北農研・寒冷地温暖化研究チーム
  • 連絡先:電話019-643-3462、電子メールwww-tohoku@naro.affrc.go.jp
  • 区分:東北農業・生産環境、共通基盤・農業気象
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

低温・高温・乾燥などのストレスに対して、植物は細胞内の浸透圧を調節し、順化や耐性強化を図る。このプロセスに関わる細胞の水透過機能の解明が、植物の環境ストレス耐性を向上する手法確立に重要だが、細胞膜と液胞膜の水透過率の測定法が確立していないので、それぞれが水透過機能にどのように寄与するかが明らかになっていない。既存の計測法には、ガラス細管を組織細胞に挿入し膨圧変化を計測するプレッシャープローブ法と磨砕した組織から抽出した膜画分の膨張収縮を計測するストップトフロー法がある。前者は、細胞の長さが10cmにも達する巨大細胞を対象に開発されたため、高等植物の小さな細胞への適用が困難である。後者は個々の細胞単位での水透過率を評価できない。そこで上記問題点を解決し、細胞膜と液胞膜の水透過率を分離して計測・評価する新しい手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本計測・評価法は、プロトプラストならびに単離液胞を高張ソルビトール液中に 放出し、その収縮速度から細胞膜と液胞膜の水透過率を求める。
  • 1枚膜系の収縮速度は、dV/dt = Pf S νw (C-C0)で表され、これを2コンパートメントモデル(2CM)と呼ぶ(V:プロトプラストまたは単離液胞の体積、Pf:水透過率、S:表面積、νw:水の部分モル体積、C:膜内溶質濃度、C0:膜外溶質濃度)。液胞膜を有するプロトプラスト(2枚膜系)の収縮速度は、2つの2CMを連立させた3コンパートメントモデル(3CM)で表される(図1)。
  • 計測・評価手順を図2に示す。はじめにプロトプラスト全体の収縮速度を計測し、その結果を2CMに代入して、プロトプラスト全体の水透過率(Pf(bulk))を求める。次に液胞を単離し、その収縮速度を計測、2CMに代入して液胞膜の水透過率(Pf2)を決定する。プロトプラストと液胞の半径の初期値を3CMに当てはめると、Pf(bulk)Pf1および Pf2の間の定量的関係が求まるので、Pf(bulk)Pf2の計測値をこの関係に代入することにより、細胞膜の水透過率Pf1を推定できる。
  • 本手法は、個々の細胞単位の水透過率評価が可能である上、計測精度が高い。現在の実験システムにおける計測誤差はPf(bulk)Pf2で約10%、Pf1で20-30%程度である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、平成16年度研究成果情報「植物細胞の水透過率を高精度で計測する新手法(東北農業・生産環境、共通基盤・農業気象)」及び、Suga et al. 2003, Plant Cell Physiol. 44: 277-286を基礎としている。プロトプラストの単離法とマイクロマニピュレーションの技術の詳細は、上記成果および文末に記載した文献を参照されたい。
  • 本手法はプロトプラストと液胞が単離できない植物材料には適用できない。また内部に中心液胞を持たないタイプの細胞には適用できない。

具体的データ

図1 プロトプラストの模式図と3 コンパートメントモデル(3CM)の基本式

図2 水透過率測定の手順

その他

  • 研究課題名:寒冷地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:村井麻理、桑形恒男(農環研)
  • 発表論文等:
    Murai-Hatano and Kuwagata (2007) J Plant Res, DOI 10.1007/s10265-006-0035-2
    Kuwagata and Murai-Hatano (2007) J Plant Res, DOI 10.1007/s10265-006-0037-0