放牧牛をつなぎ飼い牛舎に収容すると尿中コルチゾールレベルは高まる
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要約
ウシにおいて、非侵襲的に採取できる尿のコルチゾールレベルは、その血液中レベルの代替として利用できる。放牧牛をつなぎ飼い牛舎に収容すると、尿中コルチゾールレベルはその直後から上昇し、約1週間にわたり高レベルを維持したのち牛舎収容前レベルに戻るが、再び放牧してもそのレベルはほとんど変化しない。
背景・ねらい
放牧は、ウシ本来の行動様式に基づく飼養であるためウシに対するストレスが舎飼飼養に比べて少ないと言われている。しかし放牧や舎飼といった飼養環境とストレスの関係を生理学的に検討した報告は少ない。ストレス反応の指標としては、ストレスホルモンであるコルチゾールの血液中レベルを用いることが多いが、放牧牛ではヒトとの関係が希薄になるため採血そのものが容易ではない。そこで、非侵襲的に採取できる尿に着目し、コルチゾールの尿中レベルが血液中レベルの代替として利用可能か検討する。また、放牧からつなぎ飼いを経て再び放牧という飼養環境の移行にともなう尿中コルチゾールレベルの推移を、ストレス負荷が大きいと思われる牛舎での繋留経験のないウシを用い、行動の指標とともに調べる。
成果の内容・特徴
- ウシに対してコルチゾールの分泌を促すために副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を投与すると、コルチゾールの尿中レベル(尿量や尿の水分を補正するため尿中クレアチニンに対する比率で表現)と血液中レベルは、約0.5時間の差があるだけで類似の反応パターンを示す(図1)。このことから、コルチゾールの尿中レベルは血液中レベルの代替として利用可能と考えられる。
- 放牧牛をつなぎ飼い牛舎に収容すると、尿中コルチゾールレベルはその直後から上昇し、その後約1週間にわたり高レベルを維持するが、2週間後には牛舎収容前レベルまで低下する(図2)。それらのウシを再び放牧しても尿中コルチゾールレベルはほとんど変化しない(図2)。
- つなぎ飼い牛舎への移行にともない、快適さの指標とされる反芻時の伏臥率(反芻時間に対する伏臥反芻時間の割合)は急激に低下し、牛舎飼養期間を通じて低い値を維持するが、再び放牧するとほぼ100%へ回復する(図3)。
- 以上のように、つなぎ飼いや放牧といった飼養環境の変化にともなう尿中コルチゾールレベルの推移は、快適さの行動指標の推移とは異なるパターンを示す。また、牛舎での繋留経験のないウシにとって、つなぎ飼い牛舎での飼養は相当のストレスとなりうることが推察される。
成果の活用面・留意点
- 飼養環境が家畜にもたらすストレスを評価する上での基礎的資料として活用できる。
- 牛舎での繋留経験のあるウシの場合、つなぎ飼い牛舎収容によるストレスは小さくなると考えられ、異なる結果になる可能性がある。
具体的データ



その他
- 研究課題名:公共草地を基軸とした日本短角種等の放牧型牛肉生産と地域活性化方策
- 課題ID:212-d
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2003~2005年度
- 研究担当者:東山由美、梨木守、成田大展、菅野勉(畜草研)
- 発表論文等:
1)Higashiyama et al., (2005) Asian-Aust. J. Anim. Sci., 18:1430-1434.
2)Higashiyama et al., (2007) Appl. Anim. Behav. Sci., 102:119-123.