リンゴ経営における生産技術の階層性

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

リンゴ作規模1ha以上層では、マルバ普通栽培体系のもとで労働集約的な管理を実現している。1ha未満層では、基本技術の手抜き化がみられるが、有袋栽培を維持していることから、4月以降の貯蔵リンゴ生産の担い手として重要である。

  • キーワード:リンゴ経営、就業構造、生産技術、階層性
  • 担当:東北農研・東北地域活性化研究チーム
  • 連絡先:電話019-643-3492
  • 区分:東北農業・基盤技術(経営)、共通基盤・経営
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

津軽地域では就業機会が他地域に比べて著しく乏しくなる中、かつて同質的とされたリンゴ経営は、生産方式や就業構造などにおいて階層分化が進展した。経営課題も階層毎に異なり、リンゴ産地存続のためには階層毎の対策が必要である。
  そこで、今後求められる技術開発方向の提示に資するため、津軽リンゴ産地を代表する黒石市で集落悉皆調査を実施し、リンゴ経営の就業構造、リンゴ生産の作業分担・技術内容の階層性を解明する。

成果の内容・特徴

  • 調査集落では、就業機会の縮小により中高年男性と女性が農業に回帰していることから、リンゴ作規模1ha以上層は、ほぼ経営主専従農家で占められている(表1)。一方、1ha未満層は、兼業農家、高齢専業農家、女性経営主農家で占められている。
  • 2ha以上層の農業所得は、高価格年でかろうじて家計費を賄える水準であるが、1~2ha層の農業所得は夫婦2人分(1人当たり県平均販売農家家計費1,077千円、2003年)の家計費を賄える水準にすぎない(図1)。1ha未満層の農業所得は、1人分の家計費の水準にも到達せず、農外からの所得補填が必要である。
  • 2ha以上層は全農家で、1~2ha層も大部分でリンゴ作業の夫婦協業が成立しているが、基幹労働力を欠く1ha未満層は、剪定や薬剤防除作業など生産力形成上極めて重要な作業を共同防除組織などに外部委託している(表2)。
  • 2ha以上層は、マルバ台木を基礎とした春肥・強摘葉(摘葉1回)・一斉収穫体系下で、マメコバチ、摘果剤など省力技術を用いながらも、 堆肥施用、多数回の仕上げ摘果、枝つりの実施など品質向上のための栽培管理をしている。1~2ha層も、2ha以上層ほどではないが、基本技術を励行して いる(表3)。つまり、規模の大きい農家で労働集約的な技術が採用されている。
  • 1ha未満層は無施肥、無受粉など基本技術の手抜き化がみられる(表3)。品質向上技術は葉摘み・玉回し作業など着色管理作業に集中し、ふじの有袋栽培も維持している。
  • 今後の課題として、1ha以上層は現行栽培体系下で周到な管理を達成しているが、なお所得が不足していることから技術体系の転換が必要で ある。基幹労働力を欠きながら有袋貯蔵リンゴ生産の担い手として重要な1ha未満層の存続には、オペレーター確保問題に直面している共同防除組織の再編存 続が必要である。

成果の活用面・留意点

  • JA等のリンゴ産地組織が生産振興策を策定する際の参考情報として活用できる。
  • 地域労働市場の展開が遅れた北東北リンゴ単作地帯に適用できる。
  • 代替する技術体系として、他産地で高品質化を実現しているわい化栽培などがある。
  • 共同防除組織の再編存続方策として、技術的には防除回数の削減などが求められる。

具体的データ

表1 規模階層ごとの就業の特徴 図1 リンゴ作農家における農業所得の試算

 

 

表2 リンゴ作業の分担状況 表3 リンゴ技術の内容

 

その他

  • 研究課題名: 東北農業の動向解析に基づく新たな担い手像の解明と地域食材を活かした産地戦略による地域活性化手法の開発
  • 課題ID:211-a
  • 予算区分:基盤研究費
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:長谷川啓哉
  • 発表論文等:長谷川(2007)農業問題研究 (60):13-26