寒冷地の転作田等で採草利用に向く新牧草フェストロリウム「東北1号」

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要約

「東北1号」は、越夏性及び耐湿性に優れ、寒冷地の転作田・耕作放棄地で採草利用に向く、我が国初のフェストロリウム育成品種である。「バーフェスト」に比べ約10%多収で、夏期が高温となる地域で播種後2年、その他では3年以上利用可能である。

  • キーワード:フェストロリウム、採草用、耐湿性、多収、飼料作物育種
  • 担当:東北農研・飼料作物育種研究東北サブチーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3563
  • 区分:東北農業・畜産、畜産草地
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

転作田や耕作放棄地を有効活用することは、食糧自給率向上のための重要課題である。関東以西の温暖地や暖地では、耐湿性で高品質・多収のイタリアンライグラスが栽培されるが、寒冷地・積雪地では越冬が難しい。そこで、フェスク類から越冬性等の環境耐性をライグラス類に導入して越冬性を付与したフェストロリウムの、耐湿性及び収量性に優れた寒冷地水田等での栽培に適する新品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • フェストロリウムの我が国唯一の流通品種である「バーフェスト」、数年前まで全国で販売された「エバーグリーン」と比べて、「東北1号」は3年間6場所平均で約10%多収である(表1)。播種翌年が最も多収で、年次の経過とともに収量は低下するが、「バーフェスト」に比べてその程度は小さい。
  • 夏期が高温(8月上中旬の平均気温が25°C以上)となる家畜改良センター(本所)、山形畜試で播種後2年目越夏後の衰退が著しく、雑草の進入などを考慮すると、それまでが利用期間といえる。夏期の条件が穏やかなその他の場所では、3年を経過しても100kg/a程度の年間乾物収量が期待できる(表1)。
  • 出穂始日は「バーフェスト」と同時期である。出穂期草丈が高い、無芒個体率が低い、蛍光反応率が高い、などイタリアンライグラスに特異的な特性を強く示す(表2)。
  • 北東北の越冬性、早春の草勢、雪腐病抵抗性は「バーフェスト」よりもやや劣るが、北東北の低標高地や南東北以南の中標高以下で越冬に支障はない。越夏性、秋の草勢は優れる。
  • 耐湿性は強、冠さび病、葉腐病抵抗性においても「バーフェスト」よりも優れる。耐倒伏性は同程度である。採種性は「バーフェスト」よりも劣る。
  • 寒冷地の採草用牧草の主要草種・品種であるオーチャードグラス「キタミドリ」、採草用多年生ライグラス「ハイフローラ」と比べて、「東北1号」は3カ年合計収量が同等以上、乾物消失率が「キタミドリ」よりも優れる。雪腐病罹病程度と利用3年目晩秋の被度は「キタミドリ」より劣るが「ハイフローラ」よりも優れる(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 寒冷地の中標高以下の転作田等での採草利用に向く。東北地域で2300ha、その他の地域で200haの普及面積を見込む。
  • 8月上中旬の平均気温が25°C以上となる日本海側や内陸部などでは播種後2年目夏まで、その他の地域では3年以上利用できる。近年、夏期の高温期が延長する傾向にあるので、夏期の刈取りでは若干高刈りするなど、越夏に配慮した管理を心がける。

具体的データ

表1 寒冷地各場所における東北1号及び比較品種の年次別乾物収量

表2 東北1号の諸特性

表3 東北1号と既存の草種・品種の特性 (育成地)

図1 東北1号の草姿

その他

  • 研究課題名:粗飼料自給率向上のための高TDN収量トウモロコシ、牧草等の品種育成
  • 課題ID:212-c.1
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2000~2008年度
  • 研究担当者:米丸淳一、上山泰史、久保田明人