イネとコムギとの同祖遺伝子の染色体上の位置関係がわかる標識マーカーセット

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要約

531個のPLUG(PCR-based Landmark Unique Gene)マーカーセットはイネとコムギとの同祖遺伝子の染色体上の位置関係が分かるため、イネゲノム情報を利用したコムギ目的領域へのマーカー開発において有効な標識となる。

  • キーワード:コムギ、イネ、同祖遺伝子、シンテニー、目的領域、マーカー開発、PLUG
  • 担当:東北農研・めん用小麦研究東北サブチーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3514
  • 区分:東北農業・作物(冬作物)、作物
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

農研機構のコムギ育種事業では、DNAマーカー選抜が普及している。しかし、選抜に利用できるDNAマーカーはまだ少ないことから、重要形質に関連する遺伝子の同定やマーカー化を進める必要がある。この過程では、形質との関連が示唆される染色体領域に重点的にマーカーを開発して、関与遺伝子を絞り込んでいく作業が不可欠である。しかし、異質6倍体であるコムギはゲノム構造が複雑であるため、狙った染色体領域に多数のマーカーを開発することは容易ではない。PLUG(PCR-based Landmark Unique Gene)マーカーは、イネとコムギとの遺伝子配列・構造の類似性を利用するマーカーであり、基準とするイネの遺伝子と祖先を同じくするコムギの遺伝子(同祖遺伝子)の位置情報が得られるという特徴がある。イネとコムギの共通の祖先に由来する染色体では、同祖遺伝子同士の位置関係に保存性(シンテニー)がみられる。そこで、PLUGマーカーをコムギ染色体全体に開発してこれらを標識とすることで、コムギの目的領域にマーカーを開発する際に、イネゲノム情報が利用しやすくなると期待される。

成果の内容・特徴

  • 本マーカーセットは、イネの単一コピー遺伝子531個に対応するコムギ同祖遺伝子を検出し、それらはコムギの染色体当り32~73座で全21本の染色体に分布する(表1)。
  • 本マーカーセットのうち154個のマーカーでは、イネ遺伝子とコムギのA、BおよびDゲノムに由来する3つの同祖遺伝子の染色体内での位置関係が分かる(コムギ1群染色体について図1に例示する)。
  • コムギのBACクローンのDNAをテンプレートにした場合にも本マーカーにより明瞭な産物が増幅される。また、多くの場合1つのマーカーでA、BおよびDゲノム由来の同祖領域を含むクローンを得ることができるため効率的である(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本マーカーを標識としてイネとコムギのシンテニーを利用すれば、コムギの目的領域に効率的にマーカーを開発することができる。ただし、シンテニーが局所的に崩れている場合には、標識マーカーを追加して崩壊の内容を調査しながら進める必要がある。
  • 本マーカーの基準にしたイネ遺伝子には全て注釈が付けられており、これらからコムギの同祖遺伝子の機能を予測することが可能である。
  • 本マーカーは、基準にしたイネ遺伝子に対応するコムギ同祖遺伝子を含むBACクローンのスクリーニングに利用できる。

具体的データ

図1 コムギグループ1染色体とイネ第5および第10染色体の比較地図

表1  イネ単一コピー遺伝子531個に対応した標識となるコムギ同祖遺伝子の各染色体における座数

図2 PLUGマーカーTNAC1248 (a),TNAC1252 (b)およびTNAC1263 (c)を用いたChinese SpringのBACライブラリーのスクリーニング例

その他

  • 研究課題名:めん用小麦品種の育成と品質安定化技術の開発
  • 課題ID:311-b
  • 予算区分:委託プロ(DNAマーカー)、基盤
  • 研究期間:2005~2008年度
  • 研究担当者:石川吾郎、中村俊樹、齊藤美香(日本製粉)
  • 発表論文等:
                      1)Ishikawa G. et al. (2009) Theor Appl Genet 118:499-514
                      2)データ公開サイト:http://plug.dna.affrc.go.jp/