気温上昇による春の早まりを大きく上回るコナガ誘殺の早期化が起きている

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要約

盛岡市のほぼ同一箇所で1986年から2007年までの期間に蓄積されたコナガの性フェロモントラップ誘殺データから抽出した「連続3日あるいは5日以上誘殺期間初日」等の指標値には、気温上昇による春の早まりを大きく上回る早期化傾向が認められる。

  • キーワード:コナガ、フェロモントラップ、温暖化、アブラナ科
  • 担当:東北農研・寒冷地温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3414
  • 区分:東北農業・基盤技術(病害虫)、共通基盤・病害虫
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

アブラナ科作物の重要害虫コナガは北東北などの積雪期間が60日を超える地域や12~2月の各月平均気温の積算値が0°Cを下まわる地域では自然条件下で越冬できないとされている。基本的にこれらの地域では毎年越冬可能な地域から春季に飛来してくる個体群により発生すると考えられている。岩手県盛岡市はこれまで越冬不可能な地域とされてきたが、地球温暖化によって冬期の気温が上昇し越冬可能地帯に変化が生じれば、発生様相が激変し、発生予察データの解析や防除体系に影響する可能性がある。そこで、東北農業研究センター(盛岡市)内のほぼ同じ場所で1986年から2007年までの22年の期間に蓄積されたコナガの水盤式性フェロモントラップの日毎誘殺データから、まとまった捕獲量を示す指標値を作成し、これらの値から春季のコナガ誘殺状況の傾向を明らかにして、この期間の気温変化と比較する。

成果の内容・特徴

  • 連続3日あるいは5日以上誘殺期間初日(その年に初めて連続した3日間、あるいは5日間以上の誘殺が観察された期間の最初の日)は年次との間に有意な負の相関があり、早期化している(図1)。回帰直線から求めた早期化日数は、連続3日以上誘殺期間初日は22年間で20日(5月8日頃→4月18日頃)、連続5日以上誘殺期間で21日(5月13日頃→4月22日頃)である。
  • 初2桁以上誘殺日も年次との間に負の相関があり、早期化日数は31日(5月23日頃→4月22日頃)である(図2)。
  • 盛岡地方気象台のデータによると1986年から2007年までの22年間に年平均気温は0.4°C上昇した。一方、4~5月にかけては季節の進行により1日当たり0.18°C程度気温が上昇する。したがって、気温については22年間に季節が2~3日程度早まったことになる。ところが、上で示した誘殺時期の早期化は、この季節の前進を大幅に上回っている。
  • まとまった捕獲量の指標値とはならない「初誘殺日」には、早期化の有意な傾向は見られない(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 誘殺の早期化は、温暖化に伴う越冬可能地帯の拡大やそれらの地域における気温や栽培環境の変化、気圧配置等の気象条件の変化等に影響されていると考えられる。
  • 誘殺の早期化は作物を加害する幼虫の発生時期の早期化とは必ずしも結びつかない。
  • トラップ設置翌日や数日後が初誘殺日となっている年次があることから、初誘殺日を正確に捉えるためにはトラップの設置が遅すぎた年次も含まれている可能性が高い。ただし、水盤式トラップは結氷や積雪の影響を受けるので、トラップの早期設置には限界がある。

具体的データ

図1 水盤式コナガ性フェロモントラップ連続3日および5日以上誘殺期間初日の年次変化(盛岡市、東北農業研究センター内園場)

図2 水盤式コナガ性フェロモントラップの初2桁以上誘殺日の年次変化(盛岡市、東北農業研究センター内園場)

図3 水盤式コナガ性フェロモントラップの設置日と初誘殺日の年次変化(盛岡市、東北農業研究センター内園場)

その他

  • 研究課題名:寒冷地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a.2
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:髙篠賢二・榊原充隆・本多健一郎・野田隆志・岡田益己
  • 発表論文等:髙篠ら(2008) 北日本病害虫研究会報 59: 145-148