農林水産研究や生産現場で役立つパーソナル簡易空撮気球

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要約

低ガス透過性フィルムを加工した簡単なヘリウムガス係留気球とデジタルカメラで、高解像度の空撮画像を簡単に安価に高頻度で撮影できる。気球は釣り糸で最高200mまで掲げられ、真下方向で最大6haまで撮影できる。カメラの撮影方向とシャッターはラジコンで制御する。

  • キーワード:係留気球、空撮、デジタルカメラ、ラジコン、画像解析
  • 担当:東北農研・カバークロップ研究チーム
  • 代表連絡先:電話024-593-6176
  • 区分:東北農業・作物(夏畑作物)、共通基盤・雑草
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

国土保全や自然保護事業、農林水産業、およびそれらにかかわる試験研究は、広い面積を対象とすることが多い。このため地上から全体の状況を把握することが難しく、作業の効率化や高精度化が阻まれている。これらの問題は、上空からの画像を得ることにより大きく改善されるが、これまでの人工衛星、航空機(実機、模型)等による方法はある程度の資金と高度な技術が必要であり、圃場等を手軽かつ安価に高頻度に調べることは難しい。そこで、身近な材料を使って安価なパーソナル簡易空撮気球を作製し、その工作マニュアルを公開して各種事業や試験研究の効率化に役だてる。

成果の内容・特徴

  • 本装置は、気球とカメラ部からなる(図1)。気球は、低ガス透過性フィルムを熱シーラーで袋状に加工し、ガス注入栓、ガス排気口、ハトメ、垂直尾翼をつけ、ヘリウムガスを充填したものである。全長は2.2m、直径0.6m、体積0.53立米で、最大積載重は360gで、1回のヘリウムガスの充填コストは1000円である。カメラ部は、1000万画素クラスの小型デジタルカメラをプラスチックケースに入れたもので、気球の下側に回転制御用金具を介して吊り下げる(重量251g)。カメラ方向とシャッターはAM27MHzの地上用ラジコンで制御する。気球は、投げ釣り糸とリールで最高200mまで揚がり(電波の最大到達距離)、最大で290×200m(約6ha)を撮影できる(真下方向、25mm広角レンズ)。製作費用は、デジタルカメラを入れて約6万円である。
  • 気球の形を円筒状にして垂直尾翼を付け、機体前方に係留索を付けたことにより、気球は常に風上に向かって泳ぐように動き、機体の回転や横揺れがなく安定して掲揚できる。また、低ガス透過性フィルムを使用したことにより、一日のガス漏れ量が5Lに抑えられ、満充填した場合、15日間は掲揚できる。さらに空気が機体内にほとんど入って来ないので、ガスを総入れ替えせずに、減った分を追加するだけで浮力が回復する(図2)。
  • 本装置は、作物の葉色、湿害、生育ムラ、果樹の樹勢、湿地の生態、藻の分布調査等で利用できる。図3には、雑草研究での利用例を示す。空撮画像から抽出したシロザの面積と、乾物重の間には高い相関が認められる。

成果の活用面・留意点

  • 本装置を自作するための工作マニュアルは、http://www.naro.affrc.go.jp/tarc/contents/hibari/index.html から無料でダウンロードできる。また、本装置の市販品の購入も可能である。
  • 本装置は安価で操作が簡単なので、生産者が栽培管理に活用できる。
  • ヘリウムガスの購入には、免許や届け出は不要である。
  • 他人の家屋や圃場、高圧線、空港等の近くでの許可のない空撮は法律に触れる。
  • 風速が2m/秒以上では気球の掲揚は困難である。

具体的データ

図1 (左)パーソナル簡易空撮気球

図2 (上)ガス保持力試験

図3 空撮による雑草解析の例

その他

  • 研究課題名:カバークロップ等を活用した省資材・環境保全型栽培管理技術の開発
  • 中課題整理番号:214c
  • 予算区分:基盤研究費
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:村上敏文、小林浩幸、山下伸夫、池永幸子、内田智子、好野奈美子
  • 発表論文:村上ら(2008)東北の雑草、8:20-25