黒毛和種において処置に大きな自由度を有する発情同期化法(Flex-Synch)

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要約

Flex-Synch はCIDRの腟内留置開始時にPGを併用する発情同期化法であり、発情同期日が薬物処置開始日によって限定されず、より自由に設定できる新たな手法である。その発情同期化効果は、黒毛和種経産牛で従来法と同等以上の結果が期待できる。

  • キーワード:発情同期化、Flex-Synch、CIDR、PG、黒毛和種
  • 担当:東北農研・日本短角研究チーム、高度繁殖技術研究東北サブチーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3542
  • 区分:東北農業・畜産、畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

ウシの発情同期化法として、黄体退行薬(PG)や腟内留置型黄体ホルモン製剤(CIDR)の単独処置法あるいはCIDRの処置終了前後にPGを併用する手法が定着普及している。PGの単独投与では投与後約3日目に、CIDRを用いる方法では約7~12日間の処置終了後約2日目に発情が誘起される。それらでの発情同期化効果は十分ではあるが、処置開始後4~8日目に発情を誘起できる手法はない。より柔軟な繁殖管理のために、現行の手法と比較して操作性やコストの点でほぼ同等でかつ処置開始日対して発情同期日がより自由に選択できる手法の開発は有意義と考える。そのことから、新たな発情同期化法について黒毛和種での有効性と作用機序を調べる。

成果の内容・特徴

  • Flex-Synchは従来型併用法の変法であり、CIDRの腟内留置開始時にPGを併用投与する(図1)。本法では、PGによって黄体が早期に退行した後、CIDRで黄体機能を代替することを特徴とする。そのため、CIDRの留置期間にかかわらず、抜去により黄体退行が模倣でき、それが引き金となって発情が誘起される。
  • 黒毛和種経産牛でCIDRを4~8日間留置するFlex-Synchを行うと、いずれもCIDR抜去後2日目を中心に全頭で発情が誘起されている(表1)。この成績は従来法と同等以上であり、本法は黒毛和種の優良な発情同期化法行うと、いずれもCIDR抜去後2日目を中心に全頭で発情が誘起されている(表1)。この成績は従来法と同等以上であり、本法は黒毛和種の優良な発情同期化法である。
  • 同期化後に観察される、発情翌日の排卵(図2、右)、機能的な黄体発育(図2、左)および一次主席卵胞発育(図2、右)に問題は認められない。そのことから、Flex-Synchは人工授精および胚移植の前処置として活用できると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本法の命名は「柔軟(flexibility)な同期化(synchronization)」を由来とする。
  • 本法は既存の薬物を利用するため実施上の制約はない。また、処置のためにウシの確実な保定は処置開始時の1回で済むため、操作性は従来の併用法より容易である。
  • 本法の実施開始は黄体期~黄体退行期が適切であり、発情期~発情後数日間は効果が期待しがたい。これは、PGが作用する機能的な黄体が存在せず、かつCIDRの処置にかかわらず排卵と黄体形成が進行するためである(H18年度成果情報)。
  • 発情発現までの時間は個体間で有意な差を認める(表1)。これは、本手法に特異的ではなく、発情同期化は個体の影響を大きく受けることを示している。

具体的データ

図1 Flex-Synchの特徴と発情同期化の機序

表1 黒毛和種経産牛における発情同期化成績

図2 黒毛和種経産牛におけるFlex-Synch後の卵巣・内分泌所見の推移

その他

  • 研究課題名:公共草地を基軸とした日本短角種等の放牧型牛肉生産と地域活性化方策
  • 中課題整理番号:212d.2
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:竹之内直樹、志水学、伊賀浩輔、平尾雄二、成瀬健司
  • 発表論文等:竹之内ら「ウシの発情同期化法およびそのためのキット」特許出願 2009-170260