葉緑体DNA多型はイチゴの育成系譜の検証に有用である
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要約
イチゴの栽培品種における種子親の同定や育成系譜の検証には、葉緑体DNAの2つの遺伝子間領域trnL-trnFおよびtrnR-rrn5における塩基配列多型が指標となる。
- キーワード:イチゴ、葉緑体DNA、母性遺伝、交配親、系譜情報
- 担当:東北農研・夏秋どりイチゴ研究チーム、寒冷地野菜花き研究チーム
- 代表連絡先:電話019-643-3414
- 区分:東北農業・野菜花き(野菜)、野菜茶業・野菜育種
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
正しい育成系譜を把握することは、有用形質の起源を特定したり、近親交配の目安となる近交係数を算出するうえでの基礎情報となる。日本のイチゴ品種は近親交配が進んでいるため、その品種育成においては、近交弱勢が発現しないよう各品種の育成系譜を把握することが重要である。葉緑体DNA多型は一般に被子植物では母性遺伝し、倍数性の変化の影響を受けないため、イチゴのような高次倍数性の種でも解析しやすい利点がある。そこで、イチゴの育成系譜の検証における葉緑体DNA多型の有効性を検討する。
成果の内容・特徴
- 葉緑体DNAの2つの遺伝子間領域trnL-trnFおよびtrnR-rrn5における塩基置換や挿入・欠失の変異に着目することによって、イチゴ(Fragaria x ananassa)75品種・系統および近縁野生種4種を6個のタイプに分けることができる(表1)。
- イチゴ品種・系統からは3つのタイプ(V, C, X)が見出される。北米の品種がほとんどタイプVであるのに対し、日本の品種・系統は、タイプVの他に「福羽」や「とよのか」などタイプCを示すものも多い(表2)。
- これらの葉緑体DNA多型の遺伝性を交配実験により調べた結果、母性遺伝することが確認され(データ略)、母系の検証に利用することができる。実際に図1の例のように、交配記録に誤りのある育成系譜の存在が示唆される。また、交配組合せの正逆が不明となった場合に、種子親と花粉親で葉緑体DNAタイプが異なる場合には、それを指標として種子親を特定できる。
- 8倍体の近縁野生種であるF. virginianaおよびF. chiloensisのタイプが栽培品種と同じタイプVおよびCであることは、8倍体の栽培品種が両種の交雑起源であるとする従来の仮説を支持する。また、2倍体であるF. vescaおよびF. nilgerrensisが示す塩基配列との近縁関係から、先にタイプVが生じ、そこからタイプX、タイプCが派生したものと推定される(図2)。
成果の活用面・留意点
- 今回の葉緑体DNA多型のみで全ての交配組合せの検証を行うことはできないため、両性遺伝し多型性が高いSSRマーカーなど他のマーカーを併用することで、より精度の高い親子鑑定や育成系譜の検証が可能となる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:寒冷・冷涼気候を利用した夏秋どりいちご等施設野菜の生産技術の確立
- 中課題整理番号:213b.1
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2008~2009年度
- 研究担当者:本城正憲、片岡園、由比進、森下昌三、國久美由紀、矢野孝喜、濱野恵、山崎浩道
- 発表論文等:Honjo M. et al. (2009) HortScience 44:1562-1565