低段密植養液栽培向けの加熱調理用トマト「すずこま」
要約
「すずこま」は、早生で草姿がコンパクトな心止まり性の加熱調理用トマト(クッキングトマト)品種候補であり、低段密植養液栽培に適する。
- キーワード:クッキングトマト、品種、低段密植、養液栽培、心止まり、ジョイントレス
- 担当:東北農研・寒冷地野菜花き研究チーム、全農営農・技術センター
- 代表連絡先:電話019-643-3414
- 区分:東北農業・野菜花き(野菜)、野菜茶業・野菜育種
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
日本のトマト生産においては、非心止まり性の生食用大玉品種やミニトマト品種を用いた多段どり(長期どり)の支柱栽培が主流であるが、これらの品種を利用した低段密植養液栽培も一部に普及している。他方で、腋芽かきが不要な心止まり性品種を利用した加熱調理用トマト(クッキングトマト)が注目を集めている。しかしながら、加温施設栽培に取り入れられていない等作型の分化がみられず、栽培時期が限られて長期供給できないことが普及の妨げになっている。そこで、施設内での低段密植養液栽培によってクッキングトマトの長期出荷を実現するための品種育成を行う。
成果の内容・特徴
- 「すずこま」は、極早生・心止まり性で草姿コンパクトなトマト系統「A-33-129-91」に、心止まり性の加工用トマト品種「Piline」を交雑し、自殖・選抜・「Piline」への戻し交雑を繰り返して育成された(図1)。
- 「すずこま」は、頂芽摘心や腋芽かきが不要な心止まり性を有し、草丈は1m前後とコンパクトであるため、低段密植養液栽培への適性が高い(表1)。
- 「すずこま」は、1果重は小さいが果数が多いため、「桃太郎ヨーク」以上の収量を示す。また、草丈が倍近い「にたきこま」と同程度の収量である(表1)。
- 卵形の赤系トマトで、果重は30g程度である。糖度はやや低い(表1、図2)。リコペン含量は7.9 mg/100g新鮮重であり、「桃太郎ヨーク」の5.6 mg/100g新鮮重より多い。
- ジョイントレス性を有し、ヘタなし収穫あるいは房どりに適する(図2)。
成果の活用面・留意点
- リコペン含量が多いため、桃色系生食用大玉品種と比べて加熱調理した場合の赤色が鮮やかであり、食味も優れる。
- 1果重が小さいため、多収を得るためには多数着果させる必要がある。着果作業には、労力を要するホルモン処理ではなく、受粉昆虫の利用か、省力的な振動受粉が適する。
- 固定品種で採種コストが安く、大量の種子が必要な低段密植養液栽培の種苗代を低く抑えることができる。
- 萎凋病レース1と半身萎凋病に対する抵抗性を有するものの、他の主要病害に対する抵抗性は保有していない。
- 低段密植養液栽培用に育成したが、露地や雨よけハウスでの土耕栽培も可能で、「にたきこま」より2週間程度早く収穫できる。この場合も、密植が適する。
具体的データ



その他
- 研究課題名:寒冷・積雪地域における露地野菜及び花きの安定生産技術の開発
- 中課題整理番号:211i
- 予算区分:基盤、実用技術
- 研究期間:2000~2010 年度
- 研究担当者:由比 進、山田圭太(全農)、片岡 園、本城正憲、東野裕広(全農)、松永啓、石井孝典、川頭洋一、柴田 温(全農)、岡本 潔、山崎 篤、村岡賢一(全農)、椎名宏太(全農)
- 発表論文等:由比ら「すずこま」品種登録出願 2011 年7月5日(第26126号)