界面活性剤と硫酸第一鉄処理によるスギ樹皮培地栽培シクラメンの生育改善
要約
定植培地をスギ樹皮単用としたシクラメン鉢物栽培において、界面活性剤および硫酸第一鉄を培地に処理すると生育が改善される。
- キーワード:スギ樹皮培地、シクラメン、界面活性剤、硫酸第一鉄、生育改善
- 担当:東北農研・寒冷地野菜花き研究チーム
- 代表連絡先:電話019-643-3414
- 区分:東北農業・野菜花き(花き)、花き
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
林業が盛んな東北地域では、スギ材の製材工程から大量の樹皮が発生し、その処理コストが大きな負担となっている。花き鉢物にスギ樹皮を培地として活用することができれば、製材業における廃棄処理コストを販売利益に転じることができる。また、スギ樹皮単用で生産された鉢物には、軽量であること、土と比較して清潔感があること、観賞後は可燃物として廃棄が可能なこと、などの付加価値が期待できる。一方、樹皮単用で鉢物用培地とした場合、撥水や生育阻害が問題となる。そこで、主要鉢物品目であるシクラメンを材料とし、界面活性剤処理による撥水の抑制と、硫酸第一鉄浸漬処理による生育阻害の改善を検討する。
成果の内容・特徴
- 定植培地をスギ樹皮単用とした、中輪系シクラメン底面給水栽培(エブ・アンド・フロー方式)では、定植時の非イオン系界面活性剤潅注処理により培地の撥水が抑制され、乾燥に伴う培地の土壌水分張力(pF)の上昇程度が小さくなる(図1)。また、無処理の区と比較して、植物の萎凋が抑えられ、生育が良好となる(表1)。
- 定植培地をスギ樹皮単用とした、中輪系シクラメンの点滴灌水栽培、および小輪系シクラメンの底面給水栽培において、スギ樹皮を硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.3%溶液に2日間浸漬処理してから用いると、硫酸第一鉄処理なしの区と比較して生育が著しく促進され、花蕾数が増加する(表2、図2)。
成果の活用面・留意点
- 供試したスギ樹皮は、重力水排出時に固相率12%、液相率56%、気相率32%である。また、仮比重が0.15 g/mL、 pHが6.13である。
- 試験に用いた界面活性剤は培養土用製品であり、成分はアルキルフェノールエトキシレート80%および脂肪酸エステル5%である。処理水溶液濃度は1200 μL/Lであり、苗植付け後、鉢底から流出するまで十分量潅注する。
- 中輪系シクラメンの供試品種は「F1Kミディコーラス」、定植鉢径は15 cm、小輪系シクラメンの供試品種は「F1ミラクルディープローズ」、定植鉢径9 cm、いずれも冬季播種、秋季開花の作型で栽培した結果である。
- 定植時にマグァンプK 3g/LおよびBM熔燐 1g/Lを基肥とし、点滴灌水栽培では週1回OK-F-1およびピータース液肥10-30-20の2000倍により追肥、底面給水栽培ではOK-F-1により養液のEC値を0.8 mS/cmとして管理した結果である。
- 界面活性剤処理の生育への効果は、底面給水栽培では大きいが、点滴灌水栽培では明確ではない。
- 硫酸第一鉄中の鉄は、植物の根の生育を阻害するスギ樹皮中のタンニンと結合し、これを不活性化するものと推察される。
具体的データ




その他
- 研究課題名:寒冷・積雪地域における露地野菜及び花きの安定生産技術の開発
- 中課題整理番号:211i
- 予算区分:基盤、夢県土いわて
- 研究期間:2006~2009 年度
- 研究担当者:稲本勝彦、佐藤 弘(岩手農研)、高橋龍三((株)葛巻林業)、山崎浩道、長菅香織、矢野孝喜、山崎博子、山崎 篤
- 発表論文等:稲本ら(2011)園芸学研究、10:333-340