育苗器を利用した水稲種子の休眠打破法

要約

水稲種子を入れて口を横向きに折ったポリエチレン製袋を、40°Cに設定した蒸気式育苗器に5日から7日間入れることにより休眠を打破できる。

  • キーワード:水稲、休眠打破、育苗器、発芽
  • 担当:東北農研・東北水田輪作研究チーム
  • 代表連絡先:電話0187-66-2776
  • 区分:東北農業・作物(稲栽培)、作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

東北農業研究センターでは直播向き水稲品種「萌えみのり」を2006年に育成し、直播栽培技術の開発と普及を進めているが、従来の品種より出芽が遅い事例がある。その原因は、「萌えみのり」が一般品種より春における種子の休眠が深いことが一因である。しかし、従来の休眠打破法である5日から7日間の50°C乾熱処理は、生産者が実施することが難しい。そこで、生産者が休眠打破処理を実施できるように、水稲用蒸気式育苗器を利用する休眠打破方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 日本型品種で休眠が強い「萌えみのり」や「ひとめぼれ」では採種した秋においても蒸気で加温した40°Cの蒸気式育苗器による7日間処理で休眠打破できる(図1)。非常に休眠が強いインド型品種「タカナリ」では育苗器7日間では、発芽試験7日目の発芽率が88%であり、効果が十分ではない可能性がある。
  • 休眠が弱まった採種翌年の種子では「萌えみのり」、「タカナリ」とも40°C育苗器・5日間処理で7日間処理と同程度の休眠打破効果が得られる(図2)。
  • 実用規模で処理する場合、種子5kg入りの網袋を45Lポリエチレン製袋(以下ポリ袋)に2つ入れ、口を横向に折り、苗箱に載せる(図3)。この苗箱を蒸気で加温した40°Cの育苗器に7日間入れることで、休眠打破できる(図4)。処理により種子水分が14.0%から14.6%に上昇するが、保存に支障がない範囲であり、カビの発生もない。

成果の活用面・留意点

  • 催芽をしない栽培法、特に慣行の鉄コーティング直播栽培や乾田直播栽培で、休眠の強い品種を栽培する場合に用いる。
  • 育苗器3段で1セット処理できる。14段棚がある120型育苗器の場合、計算上は160kgの種子が一度に処理できる。
  • 種子が水滴で濡れると処理中に発芽するので、水がポリ袋に入らないように注意する。
  • 処理後、結露しないように種子袋をポリ袋から速やかに出す。
  • 未消毒種子を用いた結果であるので、種子消毒前に実施する。休眠打破後、ペフラゾエート水和剤の0.5%湿粉衣処理では薬害は生じない。
  • 無処理種子の発芽率が0%に近いような、休眠が非常に強いインド型品種では効果が不十分な可能性がある。

具体的データ

図1 40°C 育苗器と50°C乾燥器処理が採 種した秋における発芽率に与える影響。 2010 年産種子を同年11 月に処理。図中の 日数は処理日数。発芽試験は30°C、100 粒 ×4 反復で実施。バーは標準誤差。

図2 40°C育苗器と50°C乾燥器処理が採種 翌年における発芽率に与える影響。 2009 年産種子を2010 年6 月に処理。図中の 日数は処理日数。発芽試験は30°C、100 粒× 4 反復で実施。バーは標準誤差。

図3 種子5kg 入り網袋を休眠打破処理3 反復で実施。バーは標準誤差。 する時の様子。

図4 5kg 種子入り網袋を使った休眠打破処理の 効果

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした高生産性水田・畑輪作のキーテクノロジーの開発と現地実証に基づく輪作体系の確立
  • 中課題整理番号:211k.3
  • 予算区分:委託プロ( 水田底力)
  • 研究期間:2007 年?2010 年
  • 研究担当者:白土宏之、大平陽一、福嶌陽、持田秀之、福田あかり、山口弘道、片山勝之