ヘアリーベッチのリビングマルチを用いた飼料用トウモロコシの無除草剤栽培

要約

飼料用トウモロコシの雑草は、ヘアリーベッチをリビングマルチとして用いることにより除草剤を用いることなく防除できる。この体系を導入すれば、東北北部においてもトウモロコシの連作が可能となる。

  • キーワード:雑草防除、トウモロコシ、ヘアリーベッチ、リビングマルチ
  • 担当:東北農研・寒冷地飼料資源研究チーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3543
  • 区分:東北農業・畜産、畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

食の安全性に対する関心の高まりに伴い飼料用トウモロコシの有機栽培への要望が増加している。東北農業研究センターでは、秋にシロクローバを播種し、翌春にその被覆植生中にトウモロコシを不耕起播種するリビングマルチ(LM)栽培により無農薬で雑草を防除する技術を開発した。しかし、東北北部ではシロクローバの遅播き限界が8月下旬と早いため、シロクローバの播種前までにトウモロコシを収穫することができない。このため、作期の短い麦類をシロクローバの前作に組み入れて「麦類―シロクローバ-トウモロコシ」を繰り返すトウモロコシの隔年栽培体系となってしまう。そこで遅播き適性が高く、トウモロコシ収穫後に播種できるヘアリーベッチ(以下ベッチ)を用いることにより、東北北部でもトウモロコシの連作が可能となる新たなLM栽培技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 9月中~下旬にベッチを5kg/10a程度播種し、翌年にトウモロコシを不耕起播種したあと、トウモロコシの発芽前に掃除刈りすれば、除草剤散布を行うことなく雑草を防除することができる(図1)。
  • ベッチは掃除刈後に再生し、その再生草が過剰に繁茂すると雑草だけでなくトウモロコシの生育も抑制する。再生力はベッチの播種期が遅いほど強く、北東北では9月20日頃までの播種が望ましい(図2、左)。トウモロコシの播種直前にディスクハロを用いてベッチの被覆植生を柵状に切断して再生力を弱めれば、トウモロコシへの生育抑制は大幅に軽減できるが、雑草の発生量は増加する(図2、右)。
  • トウモロコシの播種期もまたベッチの再生に影響し、播種期が早いほど再生力が強まる。過剰な再生による減収を起こさないトウモロコシの播種期は5月中旬以降である(図3)。
  • ベッチを用いたLMによる雑草防除効果は、雑草がきわめて多い有機飼料生産圃場で実証されている(表1)

成果の活用面・留意点

  • 飼料用トウモロコシの無農薬栽培技術として活用できる。
  • 部分耕起型の不耕起播種機ではベッチが絡まってトウモロコシが播種できないので、コールタ切削型の不耕起播種機を用いる。
  • 本体系による防除効果が確認できている雑草種は、ブタクサ、コアカザ、シロザ、オオイヌタデ、ハルタデ、ホソアオゲイトウ、イヌビエ、メヒシバである。ギシギシ、イタリアンライグラス、スカシタゴボウなどの越年生雑草は、本栽培法によって逆に増加する傾向があるので、これらの雑草が多い圃場への導入は避ける。
  • ディスクハロを用いる際は、被覆が反転しないようにギャング角を小さくする。
  • トウモロコシの出芽率は慣行栽培より低下するので、播種量は20%程度多くする。

具体的データ

図1.LM の雑草防除効果(平均値+標準偏差)

図2.ベッチの播種期と収量性との 関係(平均値+標準偏差)

図3.トウモロコシの播種期と収 量性との関係(平均値+標準偏差)

表1.有機飼料生産圃場におけるLM 栽培の 収量性.

その他

  • 研究課題名:飼料生産性向上のための基盤技術の確立と土地資源活用技術の開発
  • 中課題整理番号:212e.2
  • 予算区分:交付金プロ(有機短角)
  • 研究期間:2008~2010 年度
  • 研究担当者:魚住順、出口新、嶝野英子、金子真