農村女性起業による直売所の多角化の推進方向

要約

農村女性起業による直売所の多角化は加工調理事業から流通販売事業へと進行する。多角化の推進には、加工調理事業に必要な施設整備を直売所開設後早期に行うこと、運営組織員の責務・作業分担に基づく流通販売事業の実施体制の形成が重要である。

  • キーワード:農村女性起業、直売所、多角化、加工調理事業、流通販売事業
  • 担当:東北農研・東北地域活性化研究チーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3490
  • 区分:東北農業・基盤技術(経営)
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

直売所の競争激化で、農村女性起業(以下、女性起業)による直売所でも運営継続のため事業の多角化が重要となっている。女性起業では、女性自身が組織活動等で培った技術を生かせるという強みがある一方、多くは自身の財産を持たず家庭責任が重いため、資金投入や労働条件が制約され事業展開が制限されるという弱みがある。そこで、東北地域で10年以上の活動実績を持ち、直売以外の事業も行う女性起業(有人・常設直売所)の事例において、設備投資や事業実施体制に着目し、多角化の特徴を踏まえ推進方向を提示する。

成果の内容・特徴

  • 直売以外の共通する事業は、農産加工や仕出し・総菜製造(以下、仕出し)、食堂運営を含む加工調理事業、加工体験、農業体験を含む体験事業、給食への食材提供や出張販売、会員宅配、食材卸を含む流通販売事業の三つに大別できる(表1)。
  • 多角化の過程では、第1に活用技術の範囲が、第2に市場の地理的範囲が拡大する。第1は、女性の加工調理技術を生かし、直売所開設後の比較的早期に併設施設で加工調理事業を始め、直売所の品揃えの充実や集客を図る過程である。直売所を中心とした売上拡大の取組といえる。第2は、各種の流通販売事業で内外に販路を広げ、直売と関連事業全体で売上拡大を図る過程である。青果物だけでなく当該直売所の特色ある加工・仕出し品を含めた商品提案ができるため、販路開拓が容易になる(表1、図1)。
  • 加工調理事業は、提供する製品やサービスの種類に応じて施設を整備し許可を取得する必要があるが、女性起業では他機関や男性主導の生産者団体が運営する直売所に比べ、施設を整備する資金の投入に制限が大きい。そのため、自己資金で整備する女性起業は単年度の事業収益を充てることが多く、プレハブ等の簡易な施設により、段階的に整備している(表2)。加工調理事業は続く流通販売事業の開始により一層の売上拡大を実現する基盤となることから、直売所開設後早期に整備できるよう既存施設の活用や関係機関の支援が適宜必要である(図1)。
  • 加工調理事業は、概ね部会制による部会員の明確な責務・作業分担で実施されている。一方、他の事業では、実施責任者が必要な作業に直売所運営組織員を動員する体制がとられている。これらの中で通常業務として実施される流通事業においても、組織代表が実施責任者を兼任する直売所もあり(表3)、事業拡大で代表の社会的責務が増すなか、代表の負担増を招いている。個々の組織員の労働制約が大きい女性起業では、各組織員が都合に合わせて担えるよう、連絡調整や引継を含め必要な作業を細分化することで、組織員の責務・作業分担による事業実施体制を構築する必要がある(図1)。

成果の活用面・留意点

東北地域における女性起業の有人・常設直売所が、多角化により規模拡大を図る際の知見として参考になる。
 

具体的データ

表1 各事業の開始目的と開始までの年数

図1 直売所の多角化の過程

表2 施設整備にかかった年数

表3 事業の実施責任者

その他

  • 研究課題名:地域の条件を活かした水田・畑輪作を主体とする農業経営の発展方式の解明
  • 中課題整理番号:211a.2
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008~2010 年度
  • 研究担当者:澁谷美紀