復元田では土壌酸化鉄還元との競合によりメタン発生量が低減する

要約

水田を畑利用した後に復田すると、土壌有機物を起源とする電子供与体の供給が少ない。そのためFe(III)還元とメタン生成の電子をめぐる競合関係が栽培期間を通して持続し、メタン発生量が少なくなる。田畑輪換はメタン発生低減の有力な選択肢である。

  • キーワード:水田、メタン、田畑輪換、メタン生成菌、鉄還元
  • 担当:東北農研・寒冷地温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3462
  • 区分:東北農業・基盤技術(土壌肥料)、共通基盤・農業気象
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

水田を畑利用した後に復田すると、メタン発生量が低下することは知られているが、そのメカニズムは明らかでない。そこで、復田後年数の異なる水田において、メタンフラックス測定に加えて(1)土壌の酸化還元状態を示す二価鉄生成量(=Fe(III)還元量)、(2)メタン生成菌密度、および(3)培養試験による土壌のメタン生成ポテンシャルの調査を行い、復元田でのメタン発生量が少ないメカニズムを解明する。

成果の内容・特徴

  • メタン発生量とメタン生成ポテンシャルは、復田初年目および2年目水田で長期連作田(19年)より少なかった(図2)。Fe(III)の還元は19年連作>2年目>初年目であった。これらは鉄還元とメタン生成に必要な電子供与体の元となる土壌有機態炭素が長期連作田で多いことを示唆する。
  • 土中および根中のメタン生成菌密度は19年連作田が他の2区より多かった(図3)。復田初年目と2年目水田では、不十分な還元状態と基質(有機炭素)不足がメタン生成菌増殖を制限したと考えられる。
  • 電子受容体としてのFe(III)還元およびメタン生成反応の寄与を化学量論の次式により評価した。
    CO2 + 8H+ + 8e- → CH4 + 2H2O
    Fe(III) + e- → Fe(II)
    Fe(III)の還元が全電子移動量の68~94%を占めた(図4)。このことは、Fe(III)は主要な電子受容体であり、メタン生成と競合関係にあることを示す。また、復田初年目と2年目田でFe(II)濃度が低かったことは、これらの水田で被還元性鉄の還元が電子供与体不足により完了しなかったことを示す。その結果、復田初年、2年目水田ではメタン生成に電子がほとんど回らずメタン発生量が少なくなったと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 田畑輪換がメタン発生低減の有力な選択肢であることの根拠となる。
  • 本成果は常時湛水の黒ボク土圃場における試験である。試験圃場からは残さを持ち出し、有機物を施用しない状態での測定結果である。全ての圃場は水田として長期にわたり連作されており、復元田では復田の前年1年のみダイズ栽培を行っている。
  • メタンフラックス、Fe(III)還元、メタン菌密度は、メタン生成ポテンシャルは、それぞれチャンバー法、Fe(II)濃度測定(分光光度法)、リアルタイムPCR法、および培養法(30°Cで42日間)により評価した。
  • 化学量論的な評価に際し、メタン生成に要する電子はメタン生成速度と等価であり(=メタンフラックス)、Fe(II)濃度の初期値はすべての区でゼロであることを仮定した。

具体的データ

図1 メタン測定(チャンバー法)

図2.メタン生成ポテンシャルと発生量 (メタン生成ポテンシャルは培養法、発生量はチャンバー法で測定)

図3.メタン生成菌密度 (相対値、mcr A gene コピー数)

図4.Fe(III)還元およびCH4 生成に使用された電子量

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.2
  • 予算区分:基盤、委託プロ(温暖化)
  • 研究期間:2008~2010 年度
  • 研究担当者名:中嶋美幸、Moniruzzaman Khan Eusufzai(River Research Institute, Bangladesh)、常田岳志(農環研)、岡田益己(岩手大学)、杉山修一(弘前大学)、劉広成(弘前大学)、鮫島良次
  • 発表論文等:Eusufzai, M. K. et al.(2010)Methane emission from rice fields as affected by landusechange. Agriculture, Ecosystems and Environment.
    139:742–748