南の地点の補光処理で北に離れた地点の温暖化条件を模擬できる

要約

南北に離れた2地点について、南の地点において日長時間を補光により北の地点と同一にすると、北の地点における温暖化後の気温・日長条件を模擬できる。これにより、温暖化後の北地点の水稲発育を把握でき、それに基づき水稲栽培シナリオを推定できる。

  • キーワード:温暖化、水稲、影響評価、適応
  • 担当:東北農研・寒冷地温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3462
  • 区分:東北農業・基盤技術(農業気象)、共通基盤・農業気象
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

温暖化条件に適応する水稲栽培シナリオ(どのような熟期の品種をどのような作期で栽培できるか)を知る目的で、南北に離れた2地点の気温差を利用する試験を行う。南の地点において、北の地点の温暖化条件を模擬することにより、北の地点の温暖化後の水稲出穂期を推定する。それにもとづき栽培シナリオを推定する。

成果の内容・特徴

  • 現在の南の地点の気温で、北の地点の温暖化条件を模擬する(図1)。南の地点で栽培試験を行い、北の地点が現在の南地点の気温まで温暖化した場合の水稲の出穂期を推定する。
  • ただし、夏期は南の地点は北の地点より日長時間が短い(図1)。そこで、補光により、北の地点の日長時間を模擬する。
  • つくばと盛岡で補光試験を行った(表1、表2)。2009年(平年気温に近い気温条件で、つくばは盛岡より2.1°C高温であった)のつくばでの出穂期は8月9日であった(表2)。温暖化により盛岡の気温が2009年のつくば程度になった場合のコシヒカリの出穂期は、次のように推定できる。盛岡では日長時間の影響により8月9日より出穂が遅延する。両地点の日長時間差に起因する出穂期の差は8日間であるので(表2)、求める出穂期は8月9日に8日を加えて8月17日と推定できる。
  • 3で推定した出穂期に基づくと、盛岡が2.1°C温暖化した場合のコシヒカリの栽培シナリオ(出穂期、登熟期気温、出穂後気温、収量ポテンシャル)を、表3のように推定できる。現在の慣行的移植期にコシヒカリを移植すると、収量ポテンシャルは現在栽培されるあきたこまちの90%である。移植期を2週間前進させると収量ポテンシャルは同93%になるが、出穂後の気温が現在より1.6°C上昇する。

成果の活用面・留意点

  • 補光時間は次のように設定した。日の出前の照度が、水稲が明期と受感して日長反応する閾値より僅かに暗い時点(太陽高度-2.5°)から補光した。日没後は閾値より僅かに暗くなる(太陽高度-2°)まで補光した。この方法によると、補光区の明期は、無処理区(自然条件)の明期より僅かに長くなる。太陽高度が6°以上の時間帯は十分な照度があるので補光しない。
  • 2010年は猛暑であったため、上記3の温暖化後の出穂期推定値を検証できた。すなわち、盛岡では2010年は2009年より2.5°C高温となり(表1)、出穂期は8月16日となった。これは上記の4で推定した2.1°Cの温暖化時の8月17日とほぼ近い値となった。

具体的データ

図1 低緯度地点と高緯度地点の気温と日長時間

表1.盛岡とつくばの気温(°C)の比較

表2.盛岡とつくばでの補光試験における出穂期 (月/日)

表3.温暖化後の盛岡における水稲栽培の様子

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.2
  • 予算区分:基盤、交付金プロ(温暖化水稲)
  • 研究期間:2008~2010 年度
  • 研究担当者名:鮫島良次、熊谷悦史、濱崎孝弘、根本学、大野宏之、脇山恭行、丸山篤志、小沢聖(国際農研)