拘束ストレス負荷マウスに対する紫ニンジン色素抽出物の効果

要約

紫ニンジンのアントシアニン、カロテノイド色素を各々拘束ストレス負荷マウスに投与すると、悪化する脂質代謝を改善し肝臓脂質過酸化度上昇を抑制する。両色素溶液を同時投与することで、肝臓コレステロール低減に相加的な効果が認められる。

  • キーワード:紫ニンジン、拘束ストレス、脂質代謝改善、酸化ストレス抑制
  • 担当:東北農研・寒冷地特産作物研究チーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3513
  • 区分:東北農業・基盤技術(流通加工)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

ストレスは生体に障害を与えるばかりでなく、糖尿病等生活習慣病の発症要因ともなることから、ストレス状態を改善する食品・成分の重要性が一層増している。これまでに、複数の抗酸化物質がストレス状態の改善に効果を有することが、動物実験により明らかにされている。また野菜に含まれるカロテノイド、アントシアニンを含むフラボノイド化合物は、様々な機能性を有することが明らかにされており、新規機能の解明も進められている。そこで本研究では、カロテノイド、アントシアニンを主要色素として含む紫ニンジンを使用し、抽出色素群を各々単独、あるいは同時に拘束ストレス負荷マウスに投与した場合の生体内反応に及ぼす影響を調査する。

成果の内容・特徴

  • 紫ニンジンには、いずれもシアニジンをアグリコンとする5種類のアントシアニンが含まれている(図1)。カロテノイドとしてはβ及びα-カロテン、フィトエンが含まれている。アントシアニン及びカロテノイド含量は、各々51 mg及び74 mg/100g乾燥重。
  • アントシアニンとカロテノイドを同時に投与するため、色素(各々20 mg/kg体重)の投与には酸性の界面活性剤(0.09% クエン酸-0.9% Tween80)溶液を用いる。プラスチックチューブ(遠沈管)を用いた拘束ストレスをマウスに負荷することにより、非拘束非絶食(NC)群と比較して拘束コントロール(RC)群で増加する血漿総コレステロールは、カロテノイド投与(RP)群で低下し、動脈硬化指数((総コレステロール-HDLコレステロール)/HDLコレステロール))はアントシアニン投与(RA)群及びカロテノイド+アントシアニン投与(RPA)群で改善する(表1)。なお、以上の他に動物群として非拘束・絶飲食(NF)群を設定する。
  • 肝臓コレステロールはRC群に対して、RP及びRA群では低下傾向にとどまるが、RPA群では有意に低下することから、アントシアニンとカロテノイドの相加的な効果が認められる(図2)。従って、紫ニンジン色素抽出物にはカロテノイド及びアントシアニンの相加的な効果を含め、ストレス負荷時の脂質代謝改善効果が期待できる。
  • 血漿及び肝臓の脂質過酸化度(TBARS)は、血漿ではRP群、肝臓では全ての色素投与(RP、RA、RPA)群でストレスを負荷しない群と同レベルまで抑制する(図3)。以上から、紫ニンジン色素抽出物には、ストレス負荷時に上昇する生体内酸化ストレスの亢進抑制作用が期待できる。

成果の活用面・留意点

  • 紫ニンジンを機能性食品素材として用いる際の知見となる。
  • 紫ニンジンは生食可能な「TCH-721」(タキイ種苗)を用いている。
  • マウスは雄性8週齢のICRマウスを用いている。
  • 本試験の効果はヒトでの確認はされていない。

 具体的データ

図1 紫ニンジンアントシアニン抽出物のHPLC クロマトグラム(520 nm)

表1 紫ニンジン色素抽出物のストレス負荷マウス血漿脂質に及ぼす影響

図2 紫ニンジン色素抽出物のストレス負荷マウス肝臓コレステロールに及ぼす影響

図3 紫ニンジン色素抽出物のストレス負荷マウス(A)血漿(B)肝臓脂質過酸化度に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:寒地・寒冷地特産作物の優良品種の育成及び利用技術の開発
  • 中課題整理番号:311f.2
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008~2009 年度
  • 研究担当者:渡辺満
  • 発表論文等:渡辺満ら (2011) 日本食品科学工学会誌、58(1):7-15.