玄米カドミウム低吸収性水稲中間母本系統「奥羽PL6」

要約

「奥羽PL6」は、東北地域中部では"中生の晩"に属する粳種である。土壌Cd(カドミウム)濃度が高い圃場において、安定して玄米Cd濃度が低い。玄米Cd低吸収性QTL(qLCdG11)を保有し、交配後代において玄米Cd濃度が低い個体を選抜できる。

  • キーワード:イネ、カドミウム、中間母本系統、QTL、qLCdG11
  • 担当:作物開発・利用・水稲品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 0187-66-2773
  • 研究所名:東北農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネの玄米Cd低減対策の一つとして、玄米Cd低吸収性品種の利用は重要である。玄米のCd吸収性には品種間差異があるが、土壌の種類やCdの濃度レベルで差異が変動する場合があり、安定して低吸収性のものを見出すことが難しい。また、アフリカの陸稲品種「LAC23」は比較的安定した低吸収性品種であるが、長稈、長粒、低収量等で実用的な栽培特性が劣る。そこで、実用的な玄米Cd低吸収性品種を育成するために、「LAC23」の玄米Cd低吸収性を導入した中間母本系統を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「奥羽PL6」は、玄米Cd低吸収性品種「LAC23」を母とし、多収品種の「ふくひびき」を父とする交配組合せから育成された粳系統である。
  • 土壌Cd濃度が高い圃場(A圃:約3.0mg/kg、B圃:約0.8mg/kg)における栽培試験において、「奥羽PL6」は安定して「ひとめぼれ」より玄米Cd濃度が低い(図1)。
  • 「LAC23/ふくひびき」の126の組換え自殖系統(F6とF7)を用いたQTL解析により、第11染色体に「LAC23」のアリルが玄米Cd濃度を低下させるQTL(qLCdG11)を検出している(図2)。「奥羽PL6」は、この玄米Cd低吸収性QTL(qLCdG11)を保有している。
  • 「奥羽PL6/ひとめぼれ」のF2集団における玄米Cd濃度の結果から、玄米Cd低吸収性DNAマーカーによる選抜は有効と考えられ、「奥羽PL6」の交配後代から玄米品質が良好で玄米Cd濃度が低い個体を選抜できる(図3)。
  • 育成地における出穂期、成熟期は「ひとめぼれ」並かやや遅い"中生の晩"熟期に属する(表1)。
  • 稈長は「ひとめぼれ」より長く、穂長は「ひとめぼれ」と同程度で、穂数は「ひとめぼれ」より少ない。耐倒伏性は"強"で、精玄米重は「ひとめぼれ」より少ない(表1)。
  • いもち病真性抵抗性遺伝子型は不明で、いもち病圃場抵抗性は、葉いもち、穂いもちともに不明である。障害型耐冷性は"弱"である(表1)。
  • 玄米千粒重は「ひとめぼれ」より2g程度軽い。外観品質は「ひとめぼれ」より明らかに劣る。食味は「ひとめぼれ」より明らかに劣る(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 実用的な玄米Cd低吸収性品種の育成に利用できる。
  • 玄米Cd濃度は幼穂形成期から乳熟期(出穂3週間前から出穂3週間後)の期間に土壌が酸化状態の場合に高くなるため、その期間に湛水せず土壌の酸化状態を維持した栽培で玄米を生産し、その玄米Cd濃度を分析している。
  • 玄米Cd低吸収性QTL(qLCdG11)のLOD値および寄与率は低いため、「奥羽PL6」並みの玄米Cd濃度の系統を選抜する場合には玄米Cd濃度の測定が必要である。

具体的データ

図1 年次と圃場が異なる栽培における玄米Cd濃度の比較図2 玄米Cd低吸収性QTL(qLCdG11)領域とマーカー位置
表1 奥羽PL6の栽培特性図3 玄米品質と玄米Cd濃度の相関(2010A圃)

(太田久稔、佐藤秀樹)

その他

  • 中課題名:米粉等加工用・業務用水稲品種の育成及び米の未利用成分利用技術の開発
  • 中課題番号:112a0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(新農業展開)
  • 研究期間:2003~2011年度
  • 研究担当者:太田久稔、佐藤秀樹、福嶌陽、梶亮太、中込弘二、山口誠之、片岡知守、遠藤貴司、横上晴郁
  • 発表論文等:Sato H. et al. (2011)Breeding Science 61(2):196-200