地上部の蒸散要求が水稲の根のアクアポリン発現の日周変動を引き起こす

要約

水稲の根の吸水に関わる膜タンパク質アクアポリンの発現量は日中に高く夜間に低い日周変動を示す。この日周変動は、地上部の蒸散要求が根に伝わりアクアポリン遺伝子発現を誘導することにより引き起こされる。

  • キーワード:水稲、吸水、蒸散要求、日周変動、アクアポリン
  • 担当:作物開発・利用・水稲多収生理
  • 代表連絡先:電話 019-643-3462
  • 研究所名:東北農業研究センター・生産基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物の根の吸水量は日中に高く夜間に低い日周変動を示す。一方、吸水に関わる膜タンパク質アクアポリンの発現量も日中に高く夜間に低い日周変動を示し、このアクアポリン発現量の変動が吸水量の日周変動に密接に関わっていると考えられる。これまで、アクアポリン発現量の日周変動は植物の持つ概日リズムにより制御されると考えられてきたが、それ以外の要因が関わる可能性については検討されてこなかった。本研究では水稲を材料に用い、根の吸水量やアクアポリン発現量の日周変動の詳細を明らかにするとともに、日中における地上部の蒸散要求が根のアクアポリン遺伝子発現を強く誘導する可能性を探る。

成果の内容・特徴

  • 根の吸水量の指標となる水透過性は、暗期に低く明期に高い日周変動を示す(図1)。これは25°Cの一定地温制御下(以下の成果2,3でも同様)で生じるため、明暗による水耕液の温度変化ではなく、光周期そのものが重要であることを示す。
  • アクアポリンOsPIP2;1OsPIP2;5の遺伝子発現量は暗期に低く、明期開始後2時間で最大値に達し、その後、明期終了に向かって徐々に低下する(図2)。なお、根で発現する他のアクアポリンについても同様の結果が得られている。本研究成果で取り上げたOsPIP2;1OsPIP2;5は、これまでの研究成果から、タンパク質として明瞭な水透過機能を持つことが明らかにされ、また根での組織局在性等の解析結果からも吸水に最も貢献するアクアポリンであると考えられる。
  • 加湿器により強制的に相対湿度を上げ地上部の蒸散を抑制した場合には、光条件下でもアクアポリン遺伝子発現は誘導されず、連続暗期条件に保った場合と同程度の発現量となる(図3)。
  • 以上の結果から、地上部の蒸散要求の増加が日中における根のアクアポリン遺伝子発現の誘導に強く関わっていることが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 本研究成果は、水稲品種「あきたこまち」を用いて水耕栽培を行った場合の結果である。
  • イネ品種の吸水能力向上に向けた栽培技術の改良、あるいは育種学的手法による品種改良のための基礎的知見として活用できる。
  • 本研究成果は、地上部の蒸散要求が根のアクアポリン遺伝子発現量の日周変動に大きく寄与することを示唆しているが、概日リズムが日周変動の一要因であることを否定するものではない。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:水稲収量・品質の変動要因の生理・遺伝学的解明と安定多収素材の開発
  • 中課題番号:112b0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2009~2012年度(2010年度は中断)
  • 研究担当者:石川(櫻井)淳子、村井(羽田野)麻理、林秀洋、アハメードアリファ、福士敬子、松本直(秋田県立大学)、北川良親(秋田県立大学)
  • 発表論文等:Sakurai-Ishikawa J. et al. (2011) Plant, Cell and Environment 34(7): 1150-1163