農家直販における贈答用リンゴの顧客拡大プロセス

要約

贈答用リンゴの受け取りをきっかけに、自らも同じ生産者のリンゴを購入し、贈答利用する消費者がいる。また、消費者の多くが「おすそわけ」の習慣を持つ。こうした消費者間で行われるリンゴの授受が農家直販における顧客の拡大につながる可能性がある。

  • キーワード:リンゴ、贈答、農家直販、顧客拡大、おすそわけ
  • 担当:経営管理システム・ビジネスモデル
  • 代表連絡先:電話 019-643-3493
  • 研究所名:東北農業研究センター・生産基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

贈答用リンゴの購入は生産地の消費者によって多くなされており、その購入先としては生産者からの直接購入の割合が高い。生産地以外の消費者に顧客を拡大する方途は示されていないが、このような消費者の贈答行為は新たな顧客の創出に結びつく可能性がある。特に、生産地県の消費者から贈答されたリンゴは、県外に顧客を拡大するきっかけとなり得る。そこで、農家直販によってリンゴを入手した顧客(自分で購入した「自家購入」および贈答によって入手した「贈答入手」)を対象とした調査の結果に基づき、生産地以外への顧客拡大の可能性について示す。

成果の内容・特徴

  • 「自家購入」の割合は全体の22%である。彼らがその生産者から購入したきっかけとしては、「人からいただいたリンゴが気に入った」ことが多くあげられており、消費者の贈答行為が新規顧客獲得につながっている。また、彼らの7割近くが、自宅消費用以外に贈答用としてもリンゴを購入している(表1)。
  • 「贈答入手」は全体の78%である。そのうちの半数が「自分でも同じ生産者から購入したい」と回答している。さらに、「リンゴを贈答に利用したい」という回答も半数にのぼっており、被贈者が新規顧客になる可能性は小さくない(表2)。
  • さらに「おすそわけ」を「よくする」回答者は全体の75%、「たまにする」回答者は20%、合わせて95%の回答者に「おすそわけ」の習慣がある(図1)。「おすそわけ」は、消費者が自主的に行う行動であるが、新たな消費者にいわばサンプルの配布を行ってくれるということであり、結果として販売促進につながる可能性がある。
  • 以下のような顧客拡大プロセスが提示できる。生産者は地元消費者に対して積極的に販売促進活動を行う(a)。地元消費者は贈答用としてそれを購入し、県外に住む親族や知人に贈る(b)。リンゴを受け取った県外消費者は実際にそれを食べて、味や品質を確認し、気に入った場合には自分でも同じ生産者に注文して自宅消費用に購入したり(c)、他の消費者に贈答したりする(d)。また、この贈答入手した県外消費者は、受け取ったリンゴや自分で購入したリンゴを近所の人などに「おすそわけ」として配ったりもする(e)。そうしてリンゴを手に入れた消費者が、また新たな顧客となって各自でリンゴを購入し、また他の消費者にも配ることにより、さらに顧客が拡大していく可能性がある(f)(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 贈答用リンゴを直接販売している、あるいは今後する予定である生産者が、顧客拡大を図る上で参考となる。
  • リンゴ以外の果物の贈答についても適用の可能性がある。
  • 調査は2009年に盛岡市のリンゴ生産者が発送するリンゴ箱に調査票を同梱して実施、郵送によって回収(222部回収、回収率25%)。県外の宛先を優先して配布したため、回答者の居住地は48%が関東地方、14%が近畿地方で、岩手県内の回答者は6%となる。

具体的データ

 表1~2,図1~2

その他

  • 中課題名:リンゴ作経営のビジネスモデルの構築と支援手法の策定
  • 中課題番号:114b0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2009~2012年度
  • 研究担当者:磯島昭代、長谷川啓哉、関野幸二
  • 発表論文等:磯島(2012)農村経済研究、30(2):18-23