放牧による野草地のダケカンバ二次林化の防止機構
要約
放牧は、草地の枯れ草や草高を減少させ裸地を増加させることによりハウチワカエデとイタヤカエデの当年生実生数を少なくしダケカンバを多くするが、採食や踏圧によりこれらの生存率や樹高を低くすることによって野草地のダケカンバ二次林化を防ぐ。
- キーワード:イタヤカエデ、ダケカンバ、ハウチワカエデ、放牧、実生
- 担当:自給飼料生産利用・寒冷地飼料生産
- 代表連絡先:電話 019-643-3412
- 研究所名:東北農業研究センター・畜産飼料作研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
日本の野草地は、火入れ、刈取り、放牧によって維持されてきた半自然草地が主であり、特有種の多様性を維持し、その景観は地域の観光資源でもある。また、家畜飼養の省力・低コスト化に役立つと再認識され、環境保全や景観創出の物語性を付加した製品販売に役立つと考えられる。放牧は、広大な半自然草地を維持する省力的な方法であるが、地域や樹種によりその効果は異なる。そこで、北上山地の高標高の半自然草地において、隣接するダケカンバの二次林の拡大を防ぐ技術を開発するために、樹木の当年生実生とその動態に及ぼす牛の放牧の影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 放牧は、草地内の優占種のスゲの草高と枯れ草の割合(被度)を減少させる一方、裸地を増加させる(図1)。これらにより、放牧は先駆種であり比較的小さい種子の陽樹のダケカンバの当年生実生数を多くし、陰樹のハウチワカエデとイタヤカエデの当年生実生数を少なくする(図2)。
- 放牧は、採食や踏圧によりダケカンバ、ハウチワカエデおよびイタヤカエデの当年生実生の翌年以降の生存率を低くし(図3)、さらに樹高伸張を抑制すること(図4)によって樹木の個体数の増加および伸張を防ぐ。
- 以上から、放牧は、草地内環境を攪乱することによってハウチワカエデとイタヤカエデの当年生実生数を減少させるがダケカンバの実生数を増加させる。しかし、放牧は、採食や踏圧によって前述3樹種の樹高や翌年以降の生存率を低くし、樹木の新たな侵入・定着を防ぐ。すなわち、牛の放牧は、野草地のダケカンバ二次林化を防ぎ、草地植生を維持し、景観を保全する。
成果の活用面・留意点
- 本試験の放牧圧は、牧野全体で1haあたり0.4から0.7頭(成牛換算)であり、それ以下では、放牧の樹木の侵入・定着を防ぐ効果は低下する可能性がある。
- 本試験の結果は、利用率の減少や放棄によりダケカンバの二次林化が危惧される野草地に適用される。北上山地では、標高1000m以上の地域が該当する。
具体的データ

その他
- 中課題名:寒冷地の土地資源を活用した自給飼料の省力・省資源・生産利用技術の開発
- 中課題番号:120c2
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2002~2011年度
- 研究担当者:東山雅一、下田勝久、池田堅太郎
- 発表論文等:東山ら(2013)日草誌58(4): 215-220